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眠りながら考えた ~演劇とか旅とか音楽とか~

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創作について、とくに舞台芸術について、考えたことを書いていきます。
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眠りながら考えた ~演劇と旅と音楽と~ まえがき

劇作家になって、今年で十五年たつ。 劇作家になりたい、と思ったことはなかった。 人生に行きづまっていたある日、突然、あるものを書き始めた。 それが、なぜか、戯曲だったのだ。 戯曲、脚本、台本。どれも同じだ。舞台で上演するための作品だ。 小説が建物だとしたら、戯曲は設計図だ。小説家は一国一城の主だが、劇作家は城を建てる一人にすぎない。まあ、初めの一人ではあるのだが。 そこが違う。 そして、そこが面白い。 いまの日本を見まわすと、 小説家と、小説家になりたい人は、たくさんい

YOUは何しに文フリへ? 有名企業が文学フリマにグッズだけ売りに来るのってどうなんだろう(眠りながら考えた(13))

文学フリマ東京37には、私のようにアリ並みにちっぽけな一般人の目には超・有名・巨大企業と見える方々も参加されていた。 株式会社新潮社様、丸善ジュンク堂書店様、ポプラ社様などだ。 (何だそれは、うちは有名じゃないっていうのか失礼な!と、例えば本屋lighthouse様や七月堂様、ナナロク社様はお怒りになるかもしれない。書肆侃侃房様や百万年書房様も、他にもたくさん。 その場合はぜひ、この記事を最後まで読んでからお叱りください。) 新潮社様のページはみごとだ。 めちゃくちゃ素敵

文フリ、無料やめるってよ 文学フリマ東京の入場有料化宣言に愕然(眠りながら考えた(12))

(2023.11.12 改稿) 文学フリマ東京37では、ご来店ありがとうございました。 予想以上に多くの方にお買い上げいただいて驚きました。 心から御礼申し上げます。 開催直前になって、ニュースレターが飛び込んできた。 来年から、文フリ東京は入場を有料化するそうだ。 2024年5月19日(日)の文フリ東京38が、1,000円。会場はいままでと同じ東京流通センター。 そして12月1日(日)の文フリ東京39が、金額は未定だがやはり有料で、 会場が東京ビッグサイトになるそうだ。

走馬灯が回らなかった件 part 4 あるいは私がぐでたまをやめた理由(眠りながら考えた(11))

 冠攣縮性[かんれんしゅくせい]狭心症。  そういう病名だったらしい。  CCUと、のちに移った一般病棟、それぞれでの主治医の先生の二人に、だいたい同じ説明を受けた。二度とも口頭で受け、字で見たわけではないから、このとおりの診断名ではなかったかもしれない。  なにせ初めて聞く言葉だ。 「『れん』は『けいれん』の『れん』です」  そう言われた記憶ははっきりある。 「冠動脈というのは三本あるんですね。そのうちのどれかが詰まってしまうのが、心筋梗塞なんですが」 「はい」 「ミムラ

走馬灯が回らなかった件 part 3 あるいは安倍晴明の呪(眠りながら考えた(11))

 病院に到着しました! と声がする。  見上げる天井が、車内の狭いそれから、がくんと揺れて建物の天井に変わる。  目に入る色はあいかわらず白と灰色ばかりだ。  救急隊員の人たちにお礼を言いたいのに、そのひまがない。  カラカラと天井が流れていく。もちろん動いているのは私を乗せたストレッチャーのほうだ。  いままで以上に多くの声がする。たくさんの数値と医学用語が飛び交っている。  すべて私に関することのはずなのに、一言もわからない。  なんだかひじょうに感心する。  恐怖

走馬灯が回らなかった件 part 2(眠りながら考えた(11))

 体を折り曲げていた、と書いたが、そんなような気がするだけで、さだかではない。  覚えていないのだ。  救急車の中の景色もほぼ覚えていない。言葉のやりとりだけが断片的に残っている。  家族の連絡先を訊かれた。しかたなく実家の住所を告げるが、母は高齢だ。もう夜だから都心まで呼び出すのはかんべんしてあげてほしい。  そう言いたいのに、救急隊員さんがすでに電話をかけてしまっている。そういう声がする。  あんのじょう母は動転して、病院までの行きかたを尋ねたりしているらしい。 「他

走馬灯が回らなかった件 part 1(眠りながら考えた(11))

 新年早々ではあるが、入院した話を書こうと思う。  昨年の暮れ、初めて救急車というものに乗った。  もっとも乗っていた間の記憶がほとんどないので、初体験にカウントしてよいものか疑問は残る。  それでいて本人は乗る直前まで 「救急車なんて大げさな。タクシーでいいですよ?」 などとはずかしがってごにょごにょ言っていた。自分のことは自分がいちばん良くわかるなどというのは幻想だ。少なくともあのときの私はわかっていなかった。  周りが私の状態を見て、一も二もなく救急車に乗せてしまった

アニメ「鎮西八郎為朝」について語っていいですか

このところまるで大河クレーマーになってしまい、自分でも悲しいので、 今日は愛するもののことを書こうと思う。 アニメ「鎮西八郎為朝」について語っちゃっていいですか?あの為朝が、アニメになっている。 ご存知のかたも多いと思うが。 鎮西八郎こと源為朝と言えば強弓の使い手、義経もリスペクトしていた源氏の最強勇者だ。(義経には叔父にあたる。) このアニメ、もともと町おこしのためのショートムービー。佐賀県は上峰町[かみみねちょう]の地域創成プロジェクトの一つとして作られたらしいのだが、

最近、スキしてくれた人の記事を読みに行くと、なぜスキしてくれたかわからないことが多くて驚く。中には凄く差別的で気持ち悪い人までいて、この人にスキされちゃって大丈夫か私?と途方にくれる。その分、ちゃんと読んで理解してくれた方々への感謝が増した。ありがとうございます。

『風よあらしよ』大杉栄の名台詞。 「僕は、一人一人が自由勝手に楽しく生きていても成り立つような、そんな社会を作りたい」 「野枝が示してくれた、血の滴るような生々しいセンチメンタリズムが、 じつは本物だ。僕は、僕の幼稚なセンチメンタリズムを取り戻したいんだ」 私も取り戻したい。

みんなで畠山重忠の喪に服そう! ~ドラマ『風よあらしよ』が教えてくれたこと

『鎌倉殿の13人』第36回、「武士の鑑」。 畠山重忠が討たれて、みんなちょっと泣いて、 「さあ次は誰の番?」 ってわくわくしながら来週を待っているんだろうか。 重忠ロスの皆さん。 喪に服すの、1週間じゃ足りなくないですか? 私はここに、 少なくとも今年いっぱいは、愛する畠山重忠の喪に服すことを誓います。 だから何だって話だが、誰にも迷惑かけないからいいのだ。 そう決心した経緯を、ちょっと書きます。 最後までおつきあいいただけたら嬉しいです。 『風よあらしよ』が教えてく

義経は卑怯者?つづき または、勝つことの意味(雑兵の目で見る源平合戦その2・後半)

前半はこちら。 その4 敵の後ろを襲うのは卑怯なのか特番「決戦!源平の戦い」。 あまりに平家愛がすごすぎて偏りまくってしまったNHK大阪局のアツさ に感動した場面がもう一つあるので、それも書いておく。 壇ノ浦じゃなくて一ノ谷の話なのだが。 再現ドラマで、息を切らせて走って来た武士が知盛に告げる。(番組開始から1時間13分あたり) 「背後から源氏勢が!」 「何?!」と知盛。「背後から不意打ちとは。あり得ぬ。あり得ぬわ」 「九郎義経のしわざかと!」 「おのれ九郎、卑怯なり。こ

義経は卑怯者?(雑兵の目で見る源平合戦その2・前半)

さて、前回積み残した、 旧説2:義経が「卑怯にも」「非戦闘員である」船の漕ぎ手たちを射殺させたため、 平家は負けた。 という俗説についてなのだけど、 書いているうちに、途中でばからしくなってきた。 どっから出てきた話でしょうね。 とっくの昔に一笑に伏されたものとばかり思っていたのに、 驚いたことに、そうでもないらしい。 少なくとも『鎌倉殿の13人』は、そのトンデモ説まる呑みで書かれていたし、 前回から紹介しているNHKの特番「決戦!源平の戦い」 (または「歴史探偵『源平合戦

壇ノ浦で平家が勝てなかった理由なんてとっくに『平家物語』の中に書いてあった(雑兵の目で見る源平合戦その1)

『鎌倉殿の13人』のひどさにあきれたのがきっかけで、 ドラマじゃない歴史番組を見るようになった。 そして分かったのは、 ドキュメンタリーも、ドラマと、けっきょく同じだということだ。 はじめにストーリーを立てて構想する。 そのストーリーが、偏っていない保証はない。 以前ここにいったん挙げた記事で、じつは削除したものが1本ある。 末尾でNHKの大河タイアップと目される歴史番組をお勧めしてしまったのだが、その後お勧めしたことを後悔したのが、削除の理由の一つだ。 「歴史探偵『源平