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映画日誌’25-08:ザ・ルーム・ネクスト・ドア

trailer:

introduction:

『トーク・トゥ・ハー』などの名匠ペドロ・アルモドバルによる人間ドラマ。病に侵され安楽死を望む女性と、彼女に寄り添う親友の最期の数日間を描く。主演は『フィクサー』でアカデミー助演女優賞に輝いたティルダ・スウィントン。『アリスのままで』で獲得したアカデミー主演女優賞のほか、世界三大映画祭すべてで女優賞を受賞したジュリアン・ムーアが共演する。アルモドバルにとって、初の長編英語劇となる。2024年・第81回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞し、ティルダ・スウィントンが第82回ゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされている。(2024年 スペイン)

story:

重い病に侵されたマーサは、かつての親友イングリッドと再会し、会っていない時間を埋めるように病室で語らう日々を過ごしていた。治療を拒み、自らの意志で安楽死を望むマーサは、人の気配を感じながら最期を迎えたいと願う。“その日”が来る時に隣の部屋にいてほしいと頼まれたイングリッドは、悩んだ末にマーサの最期に寄り添う決心をする。マーサが借りた森の中の小さな家で暮らし始めた二人。そしてマーサは「ドアを開けて寝るけれど、もしドアが閉まっていたら私はもうこの世にはいない」とイングリットに告げ、最期の時を迎える彼女との短い数日間が始まるのだった。

review:

ペドロ・アルモドバルは、どうしてこうも私の胸をかき乱し、心を震わせるのだろう。もはや語彙力を失う。好きな監督を聞かれたら、何番目かに名前が挙がるほどにはアルモドバルが好きである。彼の作品は『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』などの人間ドラマから、『私が、生きる肌』のような謎フェチ映画、『人生スイッチ』みたいなアホ映画まで網羅しており、また裏切られた!バカ!って思ったことも一度ではないが、どうしようもなく好きである。なぜならアルモドバルだから。

やがて来る「死」とどう向かい合うか、身近な人の「死」にどう寄り添うか。戦場ジャーナリストとして夥しい「死」を目の当たりにしてきたマーサは、尊厳ある死を選ぶ。かつての親友イングリットは、そんな彼女の「最後の願い」に寄り添う。女友達、母と娘、性的マイノリティ。アルモドバルが描き続けてきたテーマが横糸に織り込まれ、生きること、死ぬことへの問いが淡々と綴られていく。かと思えば、男性の存在を通して、我々が生きるこの世界がただの地獄であることをふいに突きつけてきたりする。

しかもそれを体現したのが、映画ファンにはご褒美のような顔ぶれである。鬼才ペドロ・アルモドバルが、ジュリアン・ムーアとティルダ・スウィントン。ロイヤルフラッシュだし国士無双。どう転んでも傑作にならざるを得ない組み合わせ。世界三大映画祭のひとつベネチア国際映画祭で、約20分間の拍手喝采を受けて金獅子賞を受賞したのも深く頷ける。もしかしたらこれが、彼の最高傑作かもしれない、とも思うが、巨匠75歳ときたら毎回「集大成」を更新し続けている気がするのでまったく油断がならない。

そして色の魔術師アルモドバルの才気が隅から隅まで満ちており、すべてのシーンが、どこをどう切り取っても美しい。永遠に眺めていたい、絵画のよう。そういえば、ワイエスの「クリスティーナの世界」を彷彿とさせるシーンもあった。そんな中でも、それはもう息を呑むほどに神々しく美しいシーンがあり、ただただ、うっとりと酔いしれてしまう。ニューヨークの街に、森の静けさに降り積もる雪は、いずれ私の魂にも降り積もる。私の最期の日も、世界がかくも美しくありますように、と願わずにいられない。

で、この映画をすでに観た人に確認したいんだけど、二人が過ごす森の家の冷蔵庫の中に「おーいお茶」あったよね・・・?絶対あったよね・・・?おーいお茶!!??って一瞬シラフになったがな。おーいお茶の破壊力すごいな。

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