見出し画像

映画日誌’24-29:ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ

trailer:

introduction:

『サイドウェイ』『ファミリー・ツリー』などの名匠アレクサンダー・ペイン監督の最新作。全寮制の学校でクリスマスと新年を共に過ごすことになった、孤独な3人の絆を描く。『サイドウェイ』のポール・ジアマッティが主演を務め、『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』のダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、新人のドミニク・セッサが脇を固める。ポール・ジアマッティがゴールデングローブ賞で主演男優賞を受賞した他、第96回アカデミー賞では作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされ、ダバイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞した。(2023年 アメリカ)

story:

1970年、ボストン近郊にある全寮制のバートン校。生真面目で融通が利かず、生徒からも教師仲間からも嫌われている考古学の教師ハナムは、クリスマス休暇に家に帰れない生徒たちの監督役を任命される。学校に残ったのは、母親の再婚により帰省できないアンガス、息子をベトナム戦争で亡くしたばかりの寄宿舎の料理長メアリー。まるで共通点のない3人が疑似家族のように休暇を過ごしていたクリスマスの夜、アンガスが「ボストンに行きたい」と言い出す。最初は反対していたハナム先生だったが、メアリーに説得され「社会科見学」と称してボストンに向かう。

review:

1970年、冬休みを迎えた全寮制の寄宿学校。融通の効かない堅物で生徒からも同僚や上司からも嫌われている教師ハナム、成績は良いが複雑な家庭環境のため問題行動が多い生徒アンガス、息子をベトナム戦争で亡くしたばかりで心に傷を負っている料理長メアリー。生きづらさを抱えた3人が、2週間のクリスマス休暇を共に過ごすことになる物語だ。

あたたかく、やわらかな手触りの映像は、デジタル撮影したものにハレーションやノイズを追加してフィルムで撮ったかのように加工し、70年代のニューシネマのような画質を再現したもの。ユニバーサル・ピクチャーズのロゴや、アメリカ映画協会(MPAA)のロゴも当時のものを復刻している。70年代の音楽が作品を彩り、ノスタルジックな気分になる。

ちなみに1970年にした理由は、黒澤明の大ファンであるベイン監督が「”ジダイゲキ”をやってみたかったから」とのこと。そして現代アメリカにおいて男子校はほぼ全滅しており、少し前の時代にする必要があった。さらに70年はベトナム戦争がアメリカに暗い影を落とした時代。大切なひとり息子をベトナムで失ったメアリーが、その背景を背負う。

セリフのひとつひとつが印象的で示唆に富み、時にユーモアを含んだ脚本が秀逸。そして何よりキャスティングが素晴らしい。偏屈で皮肉屋だが、実は理知的で生徒思いなハナム先生を演じたポール・ジアマッティ。息子を亡くした母の哀しみ、複雑な心情を体現したダヴァイン・ジョイ・ランドルフ。繊細なムードながら強い存在感を放つドミニク・セッサ。

3人の個性がもたらす化学反応と、ベイン監督の緻密でていねいな仕事によって、味わい深い、良質なドラマに仕上がっている。それぞれの孤独を抱えた不器用な3人が、お互いを愛する方法を見つけていく。それは少しほろ苦いけれど、大きな優しさと愛に包まれた人間讃歌が胸に沁みる。みんなもハナム先生ー!ってスクリーンに向かって叫んだらいいよ。ハナム先生ー!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?