映画日誌’24-30:フェラーリ
trailer:
introduction:
『ヒート』『マイアミ・バイス』などで知られる大御所マイケル・マン監督が、イタリアの自動車メーカー・フェラーリ社の創業者エンツォ・フェラーリを描いたドラマ。主演は『スター・ウォーズ』シリーズなどのアダム・ドライバーが主演を務め、スペインの至宝ペネロペ・クルス、『ファミリー・ツリー』などのシャイリーン・ウッドリーらが共演する。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。(2023年 アメリカ・イギリス・イタリア・サウジアラビア合作)
story:
1957年。フェラーリ社の創始者エンツォ・フェラーリは、一年前に難病を抱えた息子ディーノを亡くしたことで妻ラウラとの関係が破綻。さらにラウラと共に設立した会社は業績不振によって破産寸前となり、競合他社からの買収の危機に晒されていた。そんな中、愛人リナと息子ピエロとの二重生活が、思いがけずラウラの知るところとなってしまう。窮地に立たされたエンツォは、起死回生を懸けてイタリア全土1000マイルを縦断する過酷なロードレース「ミッレミリア」に挑む。
review:
F1の“帝王”と呼ばれたフェラーリ社の創業者、エンツォ・フェラーリの物語だ。ブロック・イェーツの著書「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」を原作に、会社経営と私生活で窮地に立った59歳のエンツォが起死回生をかけて挑んだレースの背景と真相を描く。1957年の約4カ月に焦点が当てられているが、マン監督曰く、複雑さを持つエンツォの人生において流動的で重要な出来事が集中しており、より人間的なキャラクターを作り出し、ドラマを生み出すことができると考えたとのこと。
イタリア北部のモデナ近郊に1947年に設立されたフェラーリは、主にレーシングカーと高性能スポーツカーのみを製造している自動車メーカーだ。「跳ね馬」は王侯貴族や富豪のための高級車で、最低でも1000万円、3000万〜5000万円超の車体価格であり、普通に走っているだけでトラブルがなくても年間の維持費用が100万円超。東京では港区あたりで見かけることは珍しくないが、田舎にいるときはこち亀の中でしか見たことがなかった。みんなそうじゃろ!?あるいは、伝説の天才F1ドライバー、アイルトン・セナの絶対的ライバル、アラン・プロストが駆る美しき駿馬。
エンツォ・フェラーリといえば、2019年公開の『フォードvsフェラーリ』でフォードの副社長アイカコッカに「醜い車を量産してろ」と言い放った場面が思い起こされる。現在40歳のアダム・ドライバーが当時59歳のエンツォに扮し、誰が演じているのか分からないほどの変貌ぶりで“情熱と冷酷のカリスマ”を体現しており驚かされる。『ハウス・オブ・グッチ』のマウリツィオ役にも脱帽したが、今回の仕事も実に見事だ。息子の死、夫との不仲によって不安定な精神状態を彷徨いカサカサになりつつも、ドスの効いた妻ラウラを演じたペネロペ・クルスも素晴らしい。
『フォードvsフェラーリ』みたいな「熱い男たちの飽くなき挑戦」を期待するとおそらく期待はずれ。窮地に立たされた経営者としての顔も描かれる一方で、関係が冷え切った妻ラウラと愛人リナとの三角関係、長男ディーノを失った喪失感、認知することができない庶子ピエロへの愛情と葛藤など私生活のドラマが濃厚に描かれており、人間としてのエンツォが映し出される。オペラの旋律にのせてそれぞれの人生を回顧するシーンは印象的だ。一筋縄ではいかない人間ドラマと、死と隣り合わせの迫真のレース描写にヒリヒリさせられる。
この作品のために再現された、美しい曲線を持つ真紅の車体はそれだけでうっとりするほど眼福だが、クライマックスのロードレース「ミッレミリア」の場面で、ライバルであるマセラッティ社の車体も赤だし、ドライバーたちの顔は覚えられないし、赤、赤、赤でどっちがどっちでどっちやねん!ってなるのはご愛嬌・・・。なかなかショッキングな場面もあるので閲覧注意だが、想像と少し違っていてもこれはこれで見応えがあり、『フォードvsフェラーリ』の前日譚としても興味深いものだった。
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