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映画日誌’24-24:ありふれた教室

trailer:

introduction:

ドイツの新鋭イルケル・チャタク監督によるサスペンス・スリラー。ある中学校で起きた小さな事件をきっかけに、校内の秩序が崩壊していく様子を描く。主演は『白いリボン』のレオニー・ベネシュ。2023年第73回ベルリン国際映画祭パノラマ部門CICAE(国際アートシネマ連盟)賞およびヨーロッパ・シネマ・レーベルを受賞。2023年ドイツ映画賞にて作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞を受賞し、2024年第96回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた。(2022年 ドイツ)

story:

仕事熱心で正義感の強い若手教師のカーラは、新たに赴任した中学校で1年生のクラスを受け持ち、同僚や生徒の信頼を獲得しつつあった。ある日、校内で相次ぐ盗難事件の犯人として教え子が疑われてしまう。校長たちの強引な調査に反発したカーラは、自ら真相解明に乗り出すが、彼女がひそかに職員室の様子を撮影した映像に、ある人物が盗みを働く様子が記録されていた。やがて事件をめぐるカーラや学校側の対応が噂となり、保護者の猛烈な批判や、生徒たちの反発、同僚教師との対立を招いてしまう。次第にカーラは、後戻りできない孤立無援の窮地に追い込まれていく。

review:

ドイツのギムナジウムを舞台に、若手教師がちょっとした出来心で抜き差しならない状況に追い込まれていくサスペンス・スリラーである。ギムナジウム!?オスカー!?トーマの心臓!?ってつい息巻いてしまう萩尾望都信者であるが、現代ドイツの教育現場は非常に整然としており機能的な印象で、耽美が入り込む一分のスキもないクールな面持ち。

そしてそこにはゼロ・トレランス方式(不寛容方式)を是とする校長先生がおり、校内で相次ぐ盗難事件に対応すべく強引な調査を敢行。これは学級崩壊が深刻となった1970年代のアメリカで採用された手法で、校内での行動に関する詳細な罰則を定めておき、これに違反した場合は速やかに例外なく罰を与えることで生徒自身の持つ責任を自覚させる、というものだ。

それに反発した若手教師のカーラが、ふとした思いつきで自分のデスク周りをラップトップのカメラで撮影したところ、映ってはいけないものが映っており、というのがことの発端。グローバルな顔ぶれの教室は移民や難民を受け入れてきた現代ドイツ社会の縮図だろう。カーラ自身もポーランド移民であり、嫌疑をかけられるトルコ移民の生徒に向けられる視線には、無意識のレイシズムが透けて見える。

あらかじめ断っておくと、めちゃくちゃストレスがたまる。原題は「職員室」だが、「ありふれた教室」で繰り広げられる、ありふれた会話の応酬にリアリティがありすぎる。言い得て妙な邦題をつけたものだ。相手の立場を慮るばかりに本当のことが言えない、言い訳もできない、みたいな負のループが連鎖して、正義や真実をのみ込みながら静かに状況が泥沼化していく。

ある意味とても優れた脚本を、優れた俳優が演じているため、螺旋を描きながら落ちていくカーラと一緒に事件の渦中に引き摺り込まれ、彼女の内面に蓄積されていくストレスに為す術なく共鳴してしまい、胸を掻きむしりながらの映画体験となる。他の人に勧めにくいことこの上ないが、象徴的なラストシーンも含めて面白かった。

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