見出し画像

映画日誌’24-44:シビル・ウォー

trailer:

introduction:

気鋭の映画スタジオA24が史上最高の製作費を投じ、内戦の勃発により戦場と化した近未来のアメリカを舞台に、最前線を取材するジャーナリストたちの姿を追うアクションスリラー。『28日後...』で脚本を担当し、長編デビュー作『エクス・マキナ』で 第88回アカデミー賞視覚効果賞を受賞したアレックス・ガーランドが監督を務める。出演は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のキルステン・ダンスト、「ナルコス」のワグネル・モウラ、『DUNE デューン 砂の惑星』のスティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、『エイリアン:ロムルス』のケイリー・スピーニーら。(2023年 アメリカ)

story:

連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。就任3期目に突入した権威主義的な大統領は、勝利が近いことをテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14カ月にわたって一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューをおこなうべく、ホワイトハウスを目指す。しかしその旅路は戦場と化しており、彼らは内戦の恐怖と狂気を目の当たりにすることになる。

review:

『MEN 同じ顔の男たち』でとっても不愉快な気分にさせてくれたアレックス・ガーランドが、近未来アメリカの内戦を描く。少し躊躇したが、観るしかない。観る前にインプットしておいたほうがいい情報としては、アメリカでは大統領の任期は2期までと憲法で定められている点。今作で登場する大統領は“3期目”に突入しており、彼にとって最大の脅威であるFBIを廃止している。また、伝統的に保守派の共和党が強く「レッド・ステート」と呼ばれるテキサス州と、リベラルの民主党が強く「ブルー・ステート」と呼ばれるカリフォルニア州が、司法を超越した存在となった独裁者を打倒せんと西部勢力=WF(Western Forces)として手を組んでいる異常さ。

そんな内戦の有り様が、ジャーナリストという中立性の高い立場を中心に描かれる。彼らは14ヶ月インタビューを受けていない大統領を取材するため、ホワイトハウスを目指す。その道中でさまざまな人々と接点があるが、それがどちらの体制の人なのか曖昧であり、どちらかが正義であるかのような描かれ方はしない。あくまで事実を伝えようとするジャーナリストの視点が貫かれ、ただ、そこには同じアメリカ人同士で殺し合う狂気とカオス、凄惨な地獄が横たわるだけだ。これが、ついうっかり、IMAXで観てしまったのであるが、臨場感どころか現実味がありすぎてひたすら戦慄した。

ひとときの静寂を切り裂くように響き渡る銃声、武装集団によるリンチ、民兵による大量虐殺。人間の所業とは思えない、恐ろしい描写が続く。風に揺らぐ小さな花は、戦場に残された僅かな人間性だったのかもしれない。その緩急が恐怖を増幅させ、かつてない緊張感と没入感を生み出す。赤メガネが放つ「What kind of American are you?(お前はどの種類のアメリカ人か?)」という印象的なセリフに凝縮されたレイシズム。ちなみに赤メガネを演じた俳優のジェシー・プレモンスはキルステン・ダンストの夫。降板した俳優の代役としてキルステンに電話で呼び出されて出演したらしいけど、マット・デイモンのそっくりさん、ポッと出てきた割にいい仕事しすぎである。

ところで、ケイリー・スピーニーが実にイライラさせてくれるのである。まるで危機感がなく、仲間をトラブルに巻き込む典型的な未熟者。そして何故かNikonのフィルムカメラをお使いなのである。しかもモノクロ!巻き上げ式!それを危機迫る戦場で現像し!?スマホに取り込むだと!?リー先輩はSONYのαシリーズなのに!?いやまあNikonには随分お世話になり西大井方面に足を向けて寝られない立場(マジで)ではあるが、それにしてもアンタ何なのよ・・・。しかし振り返るに、彼女の存在そのものが何らかのメタファーなのだろうと思われる。クライマックスの恍惚とした高揚感にゾッとさせれたが、きっと新しい時代の象徴なのだ。知らんけど。

なお、クライマックスではワシントンD.Cが戦場と化し、激しい銃撃戦が繰り広げられる。ガーランド監督によると、戦闘シーンを演じていたのは実際に従軍した本物のアメリカ兵たちだったそうだ。「武器の構え方、体の動き、会話はすべて本物」とのこと。ジャーナリストの視点を通して見る戦争という意味でも、先日観たマリウポリ陥落のドキュメンタリーを彷彿とさせる。これは、ただの寓話ではない。決して有り得ない未来ではないのだ。我々はアレックス・ガーランドが鳴らす警鐘に耳を傾け、いま、世界が瀕している大きな危機に目を向けるべきだろう。すべてが曖昧で複雑でよく分からない、今の時代を切り取ったようなこの映画を手がかりにして。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集