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映画日誌’25-06:おんどりの鳴く前に

trailer:

introduction:

ルーマニア・モルドヴァ地方の静かな村を舞台に、人間の醜悪さを生々しく描き出したヒューマン・サスペンス。監督は、長編2作目『Două lozuri』(2016)で同年のルーマニア興行収入1位を獲得した新鋭パウル・ネゴエスク。欲望と正義の狭間でゆれる主人公の葛藤を社会風刺を交えて巧みに表現し、ルーマニアのアカデミー賞にあたるGOPO賞で作品賞・監督賞・主演男優賞など6冠に輝いた。(2022年ルーマニア・ブルガリア合作)

story:

ルーマニア・モルドヴァ地方、自然に囲まれた静かな村。野心を失い鬱屈とした日々を過ごす中年警察官イリエは、果樹園を営みながらひっそりと第2の人生を送ることを願っている。そんなある日、平和なはずのこの村で、斧で頭を割られた惨殺死体が発見される。そのことをきっかけに、イリエは美しい村の闇を次々と目の当たりにすることになるが…

review:

どうにも難しい作品である。難解というわけではないが、どう評価していいのか分からない。くたびれた風情のヤル気のないおっさん警察官、まったく共感できない主人公が淡々と不正義を働く様子を眺めていなければいけない。最後までどこに向かっているのか分からないし、とにかく物語の滑舌も悪いしテンポも悪いので、いささか退屈するし苦痛。しかし、そう言い捨ててしまってはいけない凄みと重みがある。

おそらく、この映画に意義を見出すには、ルーマニアという国を理解する必要がある。ルーマニアでは、汚職が深刻な問題となっている。政治、軍事、医療、民間企業にいたるまで汚職が蔓延しており、2018年には約4,000人の検挙を監督してきた汚職取締局局長が、議会の圧力により解雇されるという事態も起きた。目を閉じ口をつぐんでいれば誰も飢えることのない、この美しい村は、ルーマニアという国の縮図なのだ。

それにしても、村の腐敗を目の当たりにしたイリエの葛藤、彼の中で起きる変化の描写が浅く、意図が伝わりづらい。やや説得力に欠けてしまい、最後の行動がどうにも唐突に感じてしまう。タランティーノやコーエン兄弟を彷彿とさせる怒涛のクライマックスはいいけど、そこに辿り着けるよう観客のボルテージを引っ張っていけないのは少々残念である。どんなに深いテーマを孕んでいても、届かなければ無いのと同じ。

なお、『おんどりの鳴く前に』 という邦題は、新約聖書「マタイによる福音書」からの引用らしい。「鶏が鳴く前に、あなたは三度私を知らないと言うだろう」とイエスに言われてしまう、一番弟子ペテロのことだ。なるほど、保身のために神の子を知らないと言ってしまうペテロは、私欲のために長いものに巻かれるイリエの姿とオーバーラップする。配給会社のダサい邦題を許さない委員長だけど、これはとても良い仕事。

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