見出し画像

映画日誌’24-42:憐れみの3章

trailer:

introduction:

『哀れなるものたち』で世界を圧巻したヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがタッグを組み、愛と支配をめぐる3つの物語で構成されたアンソロジー。『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』でもランティモス監督と組んだエフティミス・フィリップが共同脚本を担当した。『哀れなるものたち』にも出演したウィレム・デフォーやマーガレット・クアリーのほか、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェシー・プレモンス、『ザ・ホエール』のホン・チャウ、『女王陛下のお気に入り』のジョー・アルウィンが出演。3つの物語の中で、それぞれ異なる役柄を演じる。第77回カンヌ国際映画祭でプレモンスが男優賞を受賞。(2024年 アメリカ・イギリス合作)

story:

第1章 ”R.M.F. の死”「人生を取り戻そうとする選択の余地のない男」、第2章"R.M.F. は飛ぶ”「海で行方不明になった後に別人のようになって戻った妻を恐れる警察官」、第3章”R.M.F. サンドイッチを食べる”「天才的な精神的指導者となる運命にある特別な人物を探す決意をする女性」という3つの寓話が繰り広げられる。

review:

前作『哀れなるものたち』が消化しきれないほどのインパクトで、ヨルゴス・ランティモスの世界に飲み込まれてしまったばかりに、新作の公開が心底待ち遠しく、期待はずれだった時の絶望感を思うと心底不安でもあった。「ヨルゴス・ランティモスは、ギリシャ出身の映画監督である。2012年、『ザ・ガーディアン』紙にて「この世代のギリシャの映画監督のなかで最も才能のある人物」と評された」とWikipediaに書いてあるが、いまや世界中が彼が為す所業を固唾を飲んで見つめていると言っても過言ではない。私もその1人だ。

本作では、支配、服従、盲信する人々の憐れが描かれる。人間の愚かしい姿に辟易するが、ヨルゴス・ランティモスのレンズで拡張されているものの、人間とは大なり小なりこのような生き物だ。そのおかしみは、愛おしくもある。グロ表現が過ぎるという批評もあるが、あれはもはやメタファーなのだろう。そしてその奇妙な世界へと我々を誘うスタイリッシュな映像美、ヨルゴス作品常連のエマ・ストーンやウィレム・デフォーをはじめ、クセの強い俳優陣の見事な演技。『ザ・ホエール』で注目していたホン・チャウが独特の存在感を発揮しており、何だかうれしい。

予告で「マット・デイモン!?」と思ったら、ジェシー・プレモンス。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』出演時は少しふっくらしていて気付かなかったけど、とにかくマット・デイモンに似てる。それもそのはず、2000年の映画『すべての美しい馬』ではマット・デイモンの幼少時を演じており、そっくりさん説はデイモン公認だし、親友ベン・アフレックのお墨付き。プレモンスの出演作『ブレイキング・バッド』の劇中で精製される薬品「メス」にちなみ、メス・デイモンという愛称で呼ばれているそうだ。好きなゴリラが増えた。

それにしても、またしてもヨルゴス・ランティモスの世界に飲み込まれてしまった。『哀れなるものたち』でヨルゴス・ランティモスという不可解で不愉快なラジオとついに波長が合ってしまって激しく動揺したが、今作でもクリアに波長が合ったままだった。おかしい。自分の頭がおかしくなったのかと思ってしまうが、おそらく鬼才が凡人に歩み寄ってくれたのだろう。わかりやすく意味不明で、爽快で不快。一言で言うと怪作。ヨルゴス・ランティモスでしか味わえない、脳内を冷たいスプーンで掻き回されるような映画体験だった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?