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映画日誌’24-10:ビヨンド・ユートピア 脱北

trailer:

introduction:

北朝鮮からの亡命を試みる家族の、死と隣り合わせの過酷な旅の実態が記録されたドキュメンタリー。世界に北朝鮮の実体と祖国への想いを伝え続ける人権活動家イ・ヒョンソをはじめ、数多くの脱北者やその支援者達が登場する。Netflixドキュメンタリー『シティ・オブ・ジョイ~世界を変える真実の声~』にて高い評価を得たマドレーヌ・ギャヴィンが監督を務める。2023年サンダンス映画祭USドキュメンタリー部門観客賞を受賞。(2023年 アメリカ)

story:

これまで1000人以上の脱北者を支援してきた韓国のキム・ソンウン牧師は、北朝鮮から中国へ渡り、山間部で路頭に迷うロ一家の脱北を手伝うことになる。幼児2人と80代の老婆を含む5人家族を一度に脱北させることには、とてつもない危険と困難が伴う。キム牧師の指揮の下、各地に身を潜める50人ものブローカーが連携し、中国、ベトナム、ラオス、タイを経由して亡命先の韓国を目指す、移動距離1万2000キロメートルにもおよぶ決死の脱出作戦が始まる。

review:

1948年9月9日、ソ連の朝鮮占領軍の監督のもと建国された朝鮮民主主義人民共和国。スターリンが自分たちが思い通りにできる朝鮮人の指導者として金日成を選び、それ以降、金一族による独裁政治がおこなわれてきた。今世紀最大の人権侵害と言われている強制収容所の存在、密告や拷問、公開処刑、飢えや貧困、強制労働にさらされる巨大な監獄。「地上の楽園」で一切の外部情報を絶たれ、荒唐無稽な金正日の生い立ちを信じて疑わず、金一族を神同然に敬い慕う人たちがいる。その一方で、毎年千人以上が自由を求め脱出を試みる。

北朝鮮から命懸けの脱出を試みる人々、それを支援する人々、そして彼らの心を引き裂くものの正体は何なのか、その歴史や構造までを映し出す衝撃のドキュメンタリーだ。脱北するには中国との国境にある鴨緑江を渡り、中国からベトナム、ラオス、タイの4カ国を経由しなければ最終目的地である韓国には辿り着けない。総移動距離は1万2000キロメートルにも及ぶ。再現シーンは一切なく、制作陣のほか地下ネットワークの人々によって、彼らの死と隣り合わせの過酷な旅、脱北に失敗した者の運命が生々しく記録されており、戦慄する。

ふと、キム・キドク監督の「The NET 網に囚われた男」の漁師のことを思い出す。第二次世界大戦後に米ソの冷戦のもとで南北に分断された朝鮮半島は未だ戦時下である。朝鮮戦争は1953年に停戦したまま終わっていない。韓国に徴兵制度があるのはそのためだが、そのことを意識している日本人はきっとそれほど多くない。そして朝鮮半島が分断された背景に、日本帝国主義による朝鮮統治という歴史があったことを我々は忘れてはいけない。その認識の上でこの壮絶なドキュメンタリーを観たら、とても他人事ではいられないはずだ。

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