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映画日誌’24-33:フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

trailer:

introduction:

人類初の月面着陸にまつわる捏造説を題材にしたドラマ。ハリウッドを代表する女優スカーレット・ヨハンソンと『マジック・マイク』などのチャニング・テイタムが共演し、『スリー・ビルボード』などのウッディ・ハレルソンが共演する。『フリー・ガイ』などに製作として携わってきたグレッグ・バーランティが監督を務める。争奪戦となった脚本を手掛けたのは女優レネ・ルッソと脚本家ダン・ギルロイの娘ローズ・ギルロイ。(2024年 アメリカ)

story:

1969年、アメリカ。ケネディ大統領が宣言した〈人類初の月面着陸を成功させるアポロ計画〉から8年、失敗続きのNASAに対して国民の関心は薄れつつあった。この最悪な状況を打破するため、ニクソン大統領の側近モーはPRマーケティングのプロフェッショナルであるケリーをNASAに雇用させる。アポロ計画を全世界にアピールするために手段を選ばないケリー対してNASAの発射責任者コールは反発するが、彼女の手腕によって月面着陸が全世界の注目を集めていく。そんななか、モーからケリーに「月面着陸のフェイク映像を撮影する」という前代未聞の極秘ミッションが告げられる。

review:

アポロ11号が果たした、人類初の月面着陸にまつわる都市伝説がある。それは「アポロ11号の月面着陸を捉えた映像はNASAによるフェイクである」というもの。この噂を題材に、奇想天外な極秘プロジェクトの行方をユーモラスに描いたドラマだ。ニクソン大統領の側近に雇われてアポロ計画のイメージ戦略に取り組む、ちょっときな臭いPRマーケティングのプロをスカーレット・ヨハンソン、実直で真面目なNASAの発射責任者をチャニング・テイタムが演じる。

この捏造説については、これまでも映画化されており、最近だと月面着陸の映像製作を依頼するためキューブリックを捜すCIA局員と借金まみれのダメ男が繰り広げる珍騒動を描いた『ムーンウォーカーズ(2015)』がある。本作でもスカーレット・ヨハンソンが「監督はキューブリックがよかった」と言うシーンがあるが、『2001年宇宙の旅(1968)』が月面着陸より先に製作されていたことに気付いて驚いたりする。

チャニング・テイタム演じるコールは、アポロ計画で過去に起きた重大な事故を十字架のように背負っている人物だ。アポロ計画では、2つの大きな事後が起きている。一つはアポロ1号における予行演習中の発射台上での火災事故で、3名の飛行士が死亡している。もう一つは、アポロ13号において、月に向かう軌道上で機械船の酸素タンクが爆発した事故である。なお、アポロ13号の事故は1995年にトム・ハンクス主演で映画化されている。

そもそも、この背景には、第二次世界大戦後の冷戦下におけるソ連との熾烈な宇宙開発競争がある。1955年に勃発したベトナム戦争は米ソの代理戦争と言われるほど両国の関係は悪化しており、宇宙技術の開発における優位性を誇示するべく、米ソ間の宇宙開発競争は加速。1961年にはソ連のガガーリンが世界初の有人宇宙飛行に成功し、アメリカは世界の覇権を懸けた人類初の“月面着陸”成功を目指して「アポロ計画」を推進していたのだ。

この物語が「荒唐無稽なフェイク」であることを忘れさせないような、ほどよく散りばめられたユーモアとロマンス、人間ドラマの塩梅が良い。よく練られた巧みな脚本、プロダクションデザインも素晴らしく、映像に釘付けになる。クソ真面目な顔してコメディを成立させる謎の筋肉、チャニング・テイタムからしか摂取できない成分がある。アメリカを代表するビッチ(言っとくけど褒め言葉)、スカーレット・ヨハンソンも本領発揮しており苦しゅうない。

それでいて、アポロ計画に献身し、不可能に挑戦した名もなき人々へのリスペクト、成し遂げられたことへの称賛に溢れており、胸が熱くなる。国の威信をかけて巨額の資金が投入され、絶対に失敗が許されないプロジェクトに挑む人々の闘い。それを真正面から描いた映画ではないが、私が抱えるプレッシャーなんてゴミカスだし、私が何か盛大に失敗したところで世界は気にもかけないし、瑣末なことを考え過ぎて二の足を踏むのはやめようと思った次第。そんなことを気付かせてもらったりした映画体験であった。

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