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『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』感想、考察等(ネタバレ注意)
・先日観た『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』について色々考えているのだが、吐き出す相手もいないのでここに記していく。考察…と書くと大袈裟だが、まぁ思考メモ程度に見てもらえると助かる。一応本編と特典冊子のネタバレも込みなのでご注意願いたい。
・まず感想としては、とても良かった。なんなら年間ベストに食い込む可能性も全然あるぐらい好きだった。Jホラーの伝統をリスペクトしながらも、その表現をただ模倣するだけではなく、ちゃんと新しいものを産み出そうというアツい意志を感じたし、その試みは成功していると思った。演技や映像の質感も最初は心配だったが、気付いたらこの映画の作風にしっかり合ったものになっていて素晴らしかったと思う。中盤以降はその映像世界に取り込まれていて、画面に映る全てが気持ち悪く、嬉しかったな。
・1回の鑑賞では拾いきれていない部分も沢山あるだろうし、パンフレットもバタバタとしていて買い損じてしまったので、先述した通り考察と呼ぶには曖昧で取りこぼしている部分も沢山あるとは思うが、気になった点をまだ自分の中でもまとまっていないのに、取り留めなく書いてみようと思う。
児玉敬太の罪
・民宿の息子の話によれば(ここのシーンの質感が本当に凄い!)あの山は所謂“縁切り“のような力のある場所で、人々が神物や遺骨等色んなものを捨てていたのだという。この事自体の真偽は分からないが、まぁ一旦“そういう設定である“と呑み込むとすると、敬太くんは弟をこの山に“捨ててしまった“という風に考える事ができる。ビデオテープを回している敬太は不貞腐れた様子で、弟を少し疎ましく感じている態度を取っている。この年頃の子であれば「どっかいっちゃえ」ぐらい思っててもおかしくはない。その機微を感じ取った山が弟を“捨てられた物“だと判断したのではないだろうか。
・“普通の子供“的な感覚で考えるとこういう話になると思うが、敬太くんは普通の子供だったのだろうか、という事も少し気になる。特典でもらった背筋さん著『未必の故意』という短編小説は結構重要な副読本だと思った。“未必の故意“という言葉は実際にある法律用語で、“犯罪事実を起こす可能性を認識していながら、それが起こる事を認容している“というような意味だ。あくまで外伝的な位置付けにあるものだとは思うが、無視する事も出来ない要素だとも思う。仮に敬太くんがあの山の性質を知っていたら…?という事も考えてしまう。しかし、ビデオテープを回している時の様子からすると本当に故意であったとも考え辛いか…。
天野司の末路
・なんで上記のような考察をしたのかというと、司くんの末路がああいう風になってしまった理由になり得ると思ったからだ。司くんが、あの場所あのタイミングで向こう側に行ってしまったのは、敬太くんに“捨てられた“からなのかなぁと思っている。では何故そんな事が起きたのか。司くんが最後にした行動は“弟が敬太くんのそばに憑いているという事を指摘した“だったと思う。それを指摘すると何故捨てられる?知られたくなかった?知られたら困るのか?弟が死んでいるという事を。
・結構この辺は自分の記憶も含めて、描写的にも曖昧だと思う。劇中には弟は結局神隠しにあったのではなく、落下死した様な痕跡が残っていた。何かに導かれて落ちたのか、はたまた敬太くんが突き落とした…?いや、それは流石に無いか?あんなに悲しんでたし…。結果的に“殺してしまった“という気持ちになっていたのかな。そう考えるとまだ筋は通るか。多分、司くんを捨てたくて捨てたわけではないのだと思う。「見ないでくれ、弟を殺してしまった俺を…」と願ってしまったのか。
久住美琴の存在
・久住美琴とはなんだったのか。2人に接近しつつも、結局大きく何かを成すことは特に無かった彼女だが、気になる点は多々ある。彼女に憑いている霊とは…?という部分がまず気になる。電話がかかってくる、と言っていたので、恐らく敬太くんの亡き父が憑いているのだろうか…と思った。あの“手“も男っぽかったはず…確か…。
・ではなんで関係ない久住さんに敬太くんの父の霊が…?という事を考えた時、思ったのは「敬太の嫁になってくれ」という意志があるのではないかという事だ。確か、電話口で言っていたのも「息子をよろしく頼む」的な事だったと思うけど、ここの言葉は正直うろ覚え…、大事なところなのに…。ともかく、この映画は“家族“を取り扱っている。そして敬太くんの父親は“良い父親像“を演じていたり(敬太曰く)、弟がいなくなってからも誕生日を祝ったりと、“形“を気にする人間だったのではないかと思う。だから、同性同士で同居している敬太くんを心配して、女性を近づけたいと考えた…というのが彼の意志だったのかなって…。この映画は、そういう古い家族観みたいなものの気持ち悪さを暗に描いている映画だったのかもしれない。とはいえ、結局彼女らに何かしらの関係が続いているのは不明なので落とし所して何とも言えないが…。
・とりあえず主要人物周りを中心に気になる点を書き連ねてみたが、先述した通り取りこぼしている部分や間違えて記憶してしまっている部分も多々あると思う。上映回数が少ないのでアレだが、タイミングが合えばもう一度観に行って、今度こそパンフレットも入手したいところではある。
・最近は“考察ブーム“の寄せ返しで、「考察とかゴチャゴチャしてもさー!」みたいな風潮も蔓延している感じはするが、なんだかんだでゴチャゴチャ考えてしまうのは、それだけの魅力が作品にあるからだと思う。そして『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』もまたそういった魅力の詰まった一本だったと思う。お見事でした。
・もし何かここは違うよ!とかここはこうだと思います!みたいなご指摘があればお題箱に放り込んで置いてください。