『教団X』中村文則
冒頭から新興宗教という誤解を恐れずに言えばある種得体の知れないものへの興味にページを繰る手が止まらない。そして当たり前のことだけれどそれは人と人とのコミュニケーションで成り立っていて共感する部分も多い。一方で共感した上で裏切られる感覚。共感と裏切りの狭間を行ったり来たりしながら自己とは何かを問い直していった。しっかりとした結論は出なかったのだけれど。
小説読んでて面白さにテンションが上がったのは久しぶりな気がする。宗教というモチーフは割と興味あったし、好きだという確信があったから安心して読み始めたのだけれど予想に違わず面白かった。なんとなくダヴィンチコードを連想させられたりもしていた。ディストピアものを読みたがっている今だからこそ読みたい本ではあったのだろうか。なんとなく深層心理でどうとでもなれと思ってるのかもしれない。破滅願望と言い換えてもいい。
心に残った部分はというと教祖の説法のシーン。物理学と宗教学の話。ここだけ切り取ってしまえば小説でもなんでもない気がするけれど、きちんと話す人物を描写してバックグランドや性格をわからせてくれているから楽しく読める。音楽で政治を語るようにこれもまたある種のズルなのかもしれない。物語に乗せることで読み手の心の壁を取り払って言いたいことを心の奥にスッと届ける。そんな主張の仕方は誠実なのかよくわからない。
ただ、そんな主張とかの話を差っ引いて純粋に小説の一部として見たとするとひたすらに面白い。運命や宇宙、魂といった概念は考えれば考えるだけの答えがあるけれど、よくわかんないけど人生は面白いのだからとりあえず自分で自分のことは決めて頑張れという物語のように読んでしまった。言ってることはごく当たり前なのかもしれないけど、それでも考えることに意味がある。
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