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テクノロジーの力でよりよい世界を創造する2人の社長 「医療」と「はたらく」それぞれの社会課題に向けたアプローチ

日本最大級のアトピー患者向けアプリ「アトピヨ」を運営するアトピヨ合同会社代表赤穂氏と、DEIを推進する採用マッチングプラットフォーム「Sangoport」を運営する株式会社SAKURUG代表の遠藤が、お互いの共通点である千葉、そしてグローバル人材や男性育休、DEI推進などをテーマに対談を行いました。

<プロフィール>
赤穂亮太郎 (Ryotaro Ako)
アトピヨ合同会社 代表
アトピー、喘息、鼻炎という3つのアレルギー疾患の経験から、患者会でボランティア活動に従事。アトピーの方へのヒアリング、薬剤師である赤穂晶子の見解、プログラマーの指導・監修を受け、自らアトピー患者向けアプリ「アトピヨ」を開発。慶応義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了後、公認会計士試験に合格。EY新日本有限責任監査法人、株式会社レノバを経て、アトピヨ合同会社を設立。

遠藤洋之(Hiroyuki Endo)
株式会社SAKURUG 代表取締役
千葉県出身。株式会社GOOYAを経て2012年に株式会社SAKURUGを設立。DEIを推進する採用マッチングプラットフォーム「Sangoport」の運営、WEB制作・システム開発支援、人材事業のほか、ブロックチェーン領域での研究開発もおこなっている。世界的起業家ネットワークであるEO Tokyo理事、千葉イノベーションベース初代理事。ジャパンハートエバンジェリスト。PEAD/Famieeなどの団体にも参画。高校生インターンの受け入れや海外支援、スポーツ支援など、事業の枠を超えた若者支援にも取り組んでいる。


共通点である千葉、それぞれの繋がり

遠藤:先日は、幕張メッセのちば起業家大交流会でご一緒しましたね。赤穂さんは、千葉のご出身なのですか?

赤穂:私は元々は神奈川県横浜市の金沢文庫の出身で、その後結婚し、千葉の市川市へ引っ越しました。市川は、いいとこどりですね。自然もある一方で、東京にも近いし、空港も新幹線も近くてアクセスがいいです。

遠藤:東京に一番近い千葉ですしね!アクセスはいいのに、都心のようにごみごみしていないのもいいですよね。
僕は、3歳から27歳までずっと土気(千葉市緑区土気町)でした。勤務先が渋谷になったときに、千葉を出たんですけど、父方が横浜なので、お墓参りは毎年お盆と年末金沢八景のあたりまで行っているんです。赤穂さんのご出身地と近いですね。

赤穂:そうなんですね!!金沢と千葉も繋がりがありますね。

遠藤:去年から、DEIを進める流れで、CIB(千葉イノベーションベース)など千葉とのご縁を頂くことが多くなってきて、千葉の方々と触れ合う中で千葉に恩返しをしたいという気持ちがどんどん大きくなってきています。
赤穂さんの、千葉に対する思いはいかがですか。

赤穂:新しいコミュニティができたところが大きいですね。子どもができてからは、パパ友、ママ友ができて、年齢も仕事もバラバラですが、テニス、BBQ、飲み会など家族ぐるみで繋がっています。

グローバルな視点、多様性が必要とされる海外進出

遠藤:赤穂さんは、グローバル人材の採用で思い描かれているものはありますか。

赤穂:私はずっと日本の組織で勤務してきたんですが、最近フィリピンのエンジニアと一緒に仕事をしている中で気付きがありました。日本で勤務していた時は様々な面できっちりしている反面、時間がかかったり、報告もちゃんとしたものでなければと考えるところがありました。一方、現在の仕事では、多少粗くてもフランクでスピード感を持って進んでいます。コミュニケーションのあり方を、日々進める中で学んでいるところです。
サクラグさんは、ウクライナやインドネシアの方とどのように仕事を進められているんですか。

遠藤:そうですね、僕たちもテクノロジー業界なので、どこでも仕事ができるんですよね。開発言語は国によって変わらないので。サクラグでは、ウクライナ、インドネシア出身など様々なメンバーがこれまでに在席していて。きっかけはアフリカのルワンダで入社したメンバーで、日本人なんですけどたまたま応募してくれて。時差7時間でリモートワークしていましたね。あと嬉しかったのは、日本でずっと一緒に働いていたメンバーが家庭の事情で韓国に引っ越すことになった時、「サクラグで働き続けたい、どうにかならないでしょうか」と言ってくれたことですね。それが本当に嬉しかった。そのメンバーは今、韓国から完全リモートワークしていて、しっかり業務も回っています。国内も各地で勤務するメンバーがいて、働き方はどんどん多様になってきているので、もっと加速したいと考えています。
僕が社内外にずっと言い続けているのはアフリカ進出で、1年のうち10か月くらいはアフリカで過ごしたいと考えています。リモートで指示を出すのではなくて、僕自身が現地に乗り込んで、本当に事業を広げていく。そのためにも、もっとグローバルな視点や文化、多様性を身に着けていかなければと感じています。

赤穂:遠藤さんは、アフリカを旅されているんですよね。アフリカで暮らしたい、事業をしたい、どちらが強いですか?

遠藤:両方ですが、一番は事業ですね。経営者の先輩方からアドバイスを頂く中で、そのためにはまずTOPがいかないと事業が立ち上がらないと考えています。
アフリカへの訪問は途中コロナ禍で中断したものの、現在進行形で毎年続けています。去年はタンザニアに、その前はナイジェリアにいってきました。
僕の人生のテーマは「貧困問題」。解決するためにはまずはアフリカだ!と2016年の時に初めて行ってみたんです。実際に行ってみて目の当たりにした所謂貧富の差は、日本の比にならなくて、これは解決しなければと感じました。いきなり行くのではなく、ちゃんと日本で実績を積んでから、アフリカに進出しようと決めました。
好きなアフリカのことわざに「早く行きたければひとりで行け、遠くへ行きたければ皆で行け」というのがあって。今、日本を中心に仲間を集めているという感じです。


男性育休と女性活躍推進、労働力人口不足という社会課題に立ち向かう

赤穂:子どもが3人いるんですが、レノバに在籍していた時に3人目が生まれて初めて育休を取得しました。恐らく社内で初めて男性育休を取得したのが私で、しかも上場したぞ!というタイミングで制度上MAXの1年間を取ったんです。人事の方もきっとびっくりしたのではと思います。

遠藤:サクラグでは、2021年に取締役自ら初の男性育休を取得しました。制度ってトップから取得しないと中々浸透していかないもの。僕はまだ結婚しておらず子どももいないので、取締役にお子さんが生まれたときに、取ってほしいと僕から声を掛けました。そこから社内の意識も変わってきたなという感覚があります。
自分は育児をしていないのですが、日本の男性の育児協力が低いことを課題に思っていて、社会として解決していきたいと思っています。

赤穂:そうですね、ママに家事育児が偏っていて、男性の負担が少ないというのがまだまだありますね。育児問題については、Sangoportでも解決できそうですね。女性が働きやすくなるのではと思います。

遠藤:僕は、海外の経営者と話をすることが多いのですが、海外では経営者の男女比は半々で。一方で、日本は女性の企業率が5%とかで、グローバルなイベントに出席するのも男性ばかり。その状況を解決したいですね。

赤穂:そうですね。サクラグさんには、女性役員もいらっしゃいますよね。

遠藤:はい、現在役員の3割が女性で、どんどん増やしていっています。僕の根底にあるのは、「仕事をするうえで性別は関係ない」ということ。ただ、ライフイベントなど男性が代われない部分はあって、それで不利になってしまうことがある。それを解消できないのかなと。

赤穂:出産で1〜2年空いてしまいますよね、そこの差をSangoportで埋めていく。このサービスを新卒の方が思いついたというのがまたいいなと思います。

遠藤:Sangoportのサービスがいいなと思った一つは、サクラグにも子育て中の女性メンバーが多数いて。出産や育児でキャリアを中断するまでは、華麗な経歴を持っている方も多いんです。彼女たちの能力を活かせないのは、この国として見た時にも損失だなと。
今サクラグが取り組んでいる社会課題は、広義での労働力人口不足の解消。DX文脈では機械化で、その部分はQDXコンサルティング事業で対応しています。その中で、ひとでないとできない、または現状ひとがやった方がいい部分をSangoportで対応しています。

赤穂:日本は労働力人口不足は避けて通れないですよね。

遠藤:僕らの世代だとどうしても日本って世界No.2の経済大国で、JAPAN AS A No.1という名残があるけれど、現実はそうでないし、ここから頑張っていかないといけない。
既に様々な企業がグローバルに活躍していて、僕らの世代も積極的に進めて行かないと。

赤穂:そうですよね、日本で活躍することは大事ですが、海外に出ていかないといけないという気持ちもあります。戦後復興期は面白い企業がたくさん生まれて勢いがありましたよね、戦争で上の層が少なくなってしまったので、若者が新しい価値観で新しいものを生み出して社会を引っ張っていました。

遠藤:ということは、僕らも若手のためにはそろそろ引退しいないといけないですね(笑)

赤穂:そうなると、サクラグさんもそうですが、上下関係なく自由に提案できるということが、ポイントになってくるんでしょうね。

テクノロジーで実現するよりよい世界 アトピヨが生まれたきっかけ


遠藤:赤穂さんはアトピヨを運営されていらっしゃいますが、僕の弟は卵アレルギーを持っていて。本人は卵が大好きなので、食べちゃダメなのに食べてしまうこともあったんです。そうするとアレルギーが出てかゆみが出る、かゆすぎて行き場のない怒りと戦う姿を目の当たりにしていました。

赤穂:それは大変でしたね…30年前だと薬も今より少ないですね。今はアトピーの新薬が発売され、全身に症状が出る方もいるのですが、その新薬を使用することで既存治療で効かなかった方が改善しています。当時はステロイドの塗り薬が基本だったのですが、なかなか効かない方もいらっしゃって、親御さんも大変だったんじゃないかなと思います。

遠藤:医療はこの30年でかなり進んだということでしょうか。

赤穂:治療はこの5年くらいで劇的に進歩していて、新薬も増えてきています。塗り薬がベースで飲み薬や注射薬も出てきました。既存治療ではなかなか症状が改善しないという方は減っていくのではないでしょうか。

遠藤:アトピーへの問題意識を持っている方はたくさんいる中で、アトピヨを作ろうと思った、そのモチベーションはどこから来ているんですか?

赤穂:熱海に家族旅行に行ったときに、旅館に泊まったことがありました。
もともとハウスダスト、スギ花粉など色々アレルギーがあり、特にハウスダストアレルギーが強かったんです。
旅館の部屋で子どもが飛び跳ねたりして、ほこりが舞ったんですね、それを吸い込んでしまって。体中アレルギー反応が出てぱんぱんに腫れてしまい、息も上がって顔も真っ赤になって、初めて救急車で搬送されました。その時に「これはやばい…」と思いました。
もともとアレルギー体質改善の治療をしていたのですが、それでもアレルギー反応を起こしてしまった。これは、今後もアレルギー疾患からは逃れられないなと思いました。
私はアトピーの他に喘息、鼻炎の経験もあり、どれかに取り組みたいと考えたのですが、その中でもアトピーが一番深刻で辛いと感じ、アトピーに特化した事業を選びました。もともと「自分でなにかやりたい」という想いもずっとありました。

遠藤:そうだったのですね。アトピヨのアイデアはどうやって生まれたんでしょうか。

赤穂:私のアトピーは幼少期のみなので、現在進行形で悩んでいる患者さんが何に困っているのかを知りたくて、患者会でボランティアを始めました。ヒアリングする中でアトピヨのアイデアを思いつき、そこからアプリのプログラミングの勉強を始めました。

遠藤:そこからプログラミングを始められたんですね!
サクラグでは、「テクノロジーを使って世の中をよくしたい」という想いがあって。赤穂さんも自身でプログラミングを勉強されていますが、テクノロジーに対する想いはいかがですか。

赤穂:そうですね、アトピーは病気ですので、一番に出てくるのは医師や製薬会社だと思います。私は医師でも医療関係者でもない。何ができるんだろう?と考えたときに、テクノロジーしかないだろうと思いました。そう思ったときに、Webかアプリというのは漠然とありました。

遠藤:とはいえ、どの分野も未経験ですよね。大学での研究は何をされていたんですか?

赤穂:大学と大学院は理系の管理工学という分野で、情報系に近かったですね。その時にC++やVBAをやったことがありました。ただ、その時はアプリはなく、ネット検索も充実していないので本を買って、バグが出ると聞ける人もいないので大変な時代でした(笑)
実際のアプリ開発は、オンラインスクールを利用してSwiftを学習し、その後Flutterに移行しています。

事業ニーズを感じたタイミングとビジネスモデル

遠藤:この事業はいけそうだ!と、感じたときはありましたか?

赤穂:アトピー患者の方と飲みに行ったとき、その内のお1人がブログで症状の画像を時系列で公開していて、そのブログが人気だと聞きました。インスタグラムのように時系列で症状画像を並べられるアトピー患者専用の匿名アプリはきっと需要がある、と感じたのが最初です。

遠藤:最初の方からいけそうだなという感覚があったんですね。

赤穂:その感覚はありました。ただ、事業を始めるにあたってヒアリングを一定数したのですが、そんなに多くはできませんでした。不安を持ちながらアプリ開発を進めていました。いざアプリをリリースすると、使ってくださる方が結構いて、その時にも「このサービスはニーズがある」と感じました。従って、最初に思いついた時と、リリース直後の2回です。

遠藤:アトピヨさんのビジネスモデルはどのようになっているのでしょうか。

赤穂:アプリ自体は無料で、製薬会社との取り組みを始めています。アトピー患者の治療支援イベントを開催したり、アプリ自体が完全匿名なので、その匿名ビッグデータを元に例えば薬がどのように使われているのかを調査したり、イベントや患者リクルート、ビッグデータ調査をしています。

遠藤:今後、収益モデルをこうしていきたいなどという想いはありますか?

赤穂:アトピヨはアトピーという病気に特化したアプリですので、製薬・医療との連携が中心になってきます。
多くの新薬が出て、治療の選択肢が増えていますので、製薬会社と連携して疾患啓発を進めていきたいです。
また、アトピー患者は症状が酷いと外出したくないという方もいます。そんな時に、かかりつけ医からオンラインで診断・処方してもらえるように、将来的にはオンライン診療・服薬指導と連携したいです。
そして、データの部分はもっと強化していきたいです。アプリの数値としては、今2万ダウンロードを超え、画像を含む投稿数は5万件を超えています。このビッグデータを活かして、京都府立医科大学、京都大学、名古屋大学、慶応大学など8病院と共同でのデータ解析を2022年より進めています。
スマホで撮った画像から重症度が判断できる、文字からは悪化因子や患者ニーズが分かるといった世界を目指して、画像と文字双方からのデータ解析を行っています。

グローバル展開を視野に、Android版リリースは一つのマイルストーン

赤穂:厚労省の発表によると、日本の患者は125万人で、大体100人に一人がアトピーになっています。アメリカだと2700万人で、数字上は20倍以上の方がアトピーに悩んでいます。もしかするとアトピヨは世界でも使ってもらえるのでは?と考え、バイリンガル対応を念頭に開発を進めています。

遠藤:素人目線なのですが、Webでというのはどうなのでしょうか。また、現在Android版も進められているとか?

赤穂:Webもいいですね!カメラが主要な動作となるのですが、今後検討の可能性もあります。また、今はiOS版のみで提供しているのですが、Android版を2023年夏リリースに向けて現在進めています。グローバル展開も視野に入れていて、海外は日本よりAndroidの方が普及率が高いので、海外進出の布石になればと考えており、Android版を出すことは一つのマイルストーンとなっています。

遠藤:アトピヨAndroid版リリースとグローバル展開、楽しみにしています!
僕のモチベーションは、西暦3000年の子どもたちがどうしたら笑顔でいられるか、なんです。
赤穂さんは「医療」、僕は「はたらく」の分野で社会課題解決を目指す。未来の子供たちのためにも、これからもお互いにテクノロジーの力でよりよい世界を創っていきたいですね。