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2023年1月の記事一覧
【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 11 (「澪標」シリーズより)
空が少し明るくなってきた頃、僕は澪さんのセットした目覚まし時計のアラームで目を覚ました。
澪さんはアラームを解除すると、寝ぼけまなこで僕の顔を見た。
「……航さんがうちに居る。夢じゃなくて良かった」
僕の存在にほっとしたのか、澪さんはそのまま二度寝に落ちてしまった。
昨日は澪さんのご両親の挨拶から帰った後も、家事をしたり、僕の相手をしたり、何かと忙しくしていた。看護師長の激務とは違った疲れが
【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 10 (「澪標」シリーズより)
澪さんのご両親のいる高齢者施設を後にし、僕は澪さんの運転で、澪さんの現在住んでいる小山市のアパートにやって来た。アパートは、澪さんの職場の病院から近い、飾り気の無い2階建てで、外壁にはところどころヒビが入っていた。
「とても古くて狭い部屋ですが、どうぞ入ってください」
澪さんがドアを開けると、ほんのりとアロマの香りがした。
澪さんに促され、僕は「お邪魔します」と言って、これから住むことになるア
【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 9 (「澪標」シリーズより)
「澪が上京して、年末年始しか帰ってこない状況が変わったのは、2021年、例のウイルスの影響で東京オリンピック・パラリンピックが1年遅れて開催された年でした。澪から、『家族が心配だから、北関東事業所に異動してきた』と連絡がありました。私の両親や妻は、澪が近くに来てくれたと喜んでいましたが、私は違和感を拭えませんでした。家族のことが心配というのも嘘ではないだろうが、東京で何かあったのではないかと思いま
もっとみる【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 8 (「澪標」シリーズより)
「──およそ60年前の春、私と妻は教師の家同士のお見合いで出会いました。当時の光景は、今でも瞼の裏に焼き付いています。桜の美しい季節でした。料亭の席で、私の向かいの席に座ったのが、妻になる女性、薫子さんでした。化粧を施され、桜色の着物を着た彼女は、浮かない顔をしていました。私は、彼女が結婚に乗り気ではないのだと思い、縁談が決まってしまう前に、料亭の外に彼女を連れ出しました。
『もしも結婚が嫌なのな