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2022年12月の記事一覧

【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 7 (「澪標」シリーズより)

【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 7 (「澪標」シリーズより)

張り詰めた空気の中、口を開いたのは澪さんの母親だった。

「──澪は、この男性で本当に良いのね?」
年老いているだけではなく、前妻を忘れられないと言っている男のもとに嫁ぐという娘を心配するのは、親として尤もなことであった。

澪さんの、母親への返答は、毅然としたものだった。

「私は、家族を必死で守り抜いてきた航さんだから好きになったの!そんな彼が、心から私を必要としてくれた。私は彼と生きていく。

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【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 6 (「澪標」シリーズより)

【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 6 (「澪標」シリーズより)

栃木県小山市の高齢者施設。駐車場に植えられた八重桜が、薄曇りのなか咲き誇っている。

僕と澪さんは施設の玄関前に立っていた。

「……航さん、顔が険しいです。うちの両親に会うの、止しましょうか?」
澪さんが不安そうに、僕の顔色をうかがっていた。

「大丈夫です。ちょっと緊張しているだけです」
再婚とはいえ、ご両親の大事な娘をもらい受けるわけなので、礼儀を欠くわけにはいかなかった。それに、僕にはどう

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【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 5 (「澪標」シリーズより)

【コラボ小説「ただよふ」番外編】陸《おか》で休む 5 (「澪標」シリーズより)

「もう、大抵のことでは驚かないと思っていたけれど、航が脳梗塞で倒れたということと、再婚するということを同時に知らされた時は、寿命が30年縮んたわ……」
母はふぅと溜め息を吐いた。

「え…母さん何歳まで生きるつもりなの?」
僕は驚きを隠せなかった。母は既に90代である。

「もちろん、人類が生きられる限界までよ。洋さんが生きられなかった分、たくさん見て聞いて、私の人生の航海が終わった時に、あの人に

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