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2022年6月の記事一覧

【コラボ小説】ただよふ 11話(「澪標」より)

【コラボ小説】ただよふ 11話(「澪標」より)

あなたのアパートに泊まった翌日の夕方、大阪の里帰りから妻と息子が自宅に戻ってきた。

「父さんも一緒に来れば良かったのに。」
と笑顔で言う息子に、
「母さんも親子水入らずで里帰りを楽しみたいだろう。」
と僕は答えた。

僕は大阪の義父母と妻たちの輪に、未だに溶け込めないでいる。
妻が病気になって実家に帰ってから、僕が東京で単身働いている間に出来上がってしまった強固な絆は、僕に疎外感をもたらした。

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【コラボ小説】ただよふ 10(「澪標」より)

【コラボ小説】ただよふ 10(「澪標」より)

鈴木澪さん。
あなたは僕…海宝航の事を芯の通った人間だと思っていたみたいだけど、あなたの方がよほど芯の通った人間だった。

あなたはあの後すぐに、僕の為にきっぱりとアロマを焚くのをやめ、エルバヴェールもつけなくなったと言っていた。
僕はあなたのプライベートの大切な時間を奪ってしまった。

だけど、僕には懸念があった。
我慢に我慢を重ねたら、あなたも妻みたいに壊れてしまうかもしれない。

そこで、僕

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【コラボ小説】ただよふ 9(「澪標」より)

【コラボ小説】ただよふ 9(「澪標」より)

あの日から4か月、あなたとは、上司と部下のお行儀のよい関係を維持してきた。
互いに、それを逸脱できないことを理解していた分、相手の眼差しや仕草に潜む特別な思いを探していた。
2人の間に流れ出してしまった親密な空気を周囲に悟られないように用心することも忘れなかった。
もっとも、僕とあなたが2人きりになったのは、たまにランチをともにしたときくらいで、周囲には、気の合った上司と部下にしか見えなかっただろ

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【コラボ小説】ただよふ 8(「澪標」より)

【コラボ小説】ただよふ 8(「澪標」より)

翌日、駅まで僕とあなたは、ほとんど会話を交わさなかった。
あなたの目は腫れぼったくなっていた。やはり昨夜は泣いていたようだった。

東京に帰る新幹線の座席に落ち着くと、僕は膝の上で手を組み、背筋を伸ばして切り出した。

「これから話すことは、あなたの胸に収めて、絶対に口外しないでほしいんです。志津にも話していません。あなたが、口外するような人ではないことはわかっていますが」

あなたは姿勢を正して

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