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記事一覧
【まとめ用】紫陽花の季節、君はいない 78〜88話(最終話)
赤ちゃんが落ち着いたところで、名前会議が始まった。
「二人とも、名前の候補はあるの?」
やはり親の意見は尊重したい。
「私は親しみやすい雰囲気の名前が良いと思うけど……名前辞典を眺めていたら、逆に迷ってしまって。だから私は名前は二人に任せるわ」
俺と柊司はあおいさんから命名を託された。
「俺は『向日葵』(ひまわり)が良いと思う。夏生まれだし、あおいが名前につくからな。」
柊司は「向日葵
【まとめ用】紫陽花の季節、君はいない 67〜77話
面接の10分前。会場の部屋の前に着いた俺は、軽く身だしなみを整えた。さっき知らない女性に話し掛けられたからか、面接に対する緊張が程よく解けていた。
時間になり名前を呼ばれたので、俺は「失礼します」と言ってから入室した。
「こんにちは。また会いましたね」
目の前には、あの女性が面接官として座っていた。
「こんにちは。面接官の方とは知らず……すいませんでした」
俺は非礼を詫びた。
「堅苦しく
【まとめ用】紫陽花の季節、君はいない 56〜66話
「──そうだ!あおいも夏越んちに来たことだし、一日遅れの誕生日パーティーでもしようぜ!!夏越、今日は日曜だから用事は無いよな?」
柊司は俺に泣き顔を見せないように冷蔵庫にさっと行った。キッチンペーパーで目を拭き、昨日詩季さんからもらってきたコンポートとジュースをテーブルに出した。
「柊司、俺スーツをクリーニング出してくるついでに、コンビニでケーキ買ってくるよ」
俺は就活で着たスーツの入った紙
【まとめ用】紫陽花の季節、君はいない 45〜55話
「痛っ!何すんだよ!」
俺はデコピンを食らった理由が分からなかった。
「夏越のど阿呆!こういう物は、本人に直に渡すものだろうがっ!」
柊司が珍しく激昂している。だけど俺だって言い分がある。
「あおいさんはお前の嫁だろ?ダンナであるお前が受け取るのが筋だろ!」
「ハァ?隣の部屋に住んでるんだし、1分もあれば渡せるだろ」
「そう言うことじゃないだろ。俺だって男なんだから、間違いがあったらどうする
【まとめ用】紫陽花の季節、君はいない 34〜44話
涼しい風が咲き誇る紫陽花の森からさわさわと吹いてきた。いないはずの彼女も「心配していたんだよ」と言っている気がした。
そういえば、闇から目を覚ます前に見たあの光景は何だったのだろう。あれも「妄言」だと言われてしまうだろうか。
言おうかどうか迷っていると、
「夏越殿、何か言いたげですね」
と御葉様に言われてしまった。
「実は……目を覚ます前に、八幡宮の拝殿で俺と紫陽の再会を願っている女の子
【まとめ用】紫陽花の季節、君はいない 23〜33話
部屋に帰ろうと玄関に行った時、柊司に呼び止められた。
「なあ、夏越。お前は悩みを溜め込む癖があるから俺は心配だ。前にも言ったけど、無理には聞かないけど話したくなったら俺は何時でも聞くからな。」
やはり、柊司には勘付かれていた。
俺は曖昧に笑顔を作って「ありがとう」と言って、自分の部屋に帰るしか出来なかった。
深夜に雨が降ったからか、夢に紫陽が出てきた。
八幡宮の満開の紫陽花の森。
【まとめ用】紫陽花の季節、君はいない 12〜22話
「何で俺が送り届けなければならないんだ?」
八幡宮の精霊たちは平気だけど、俺は知らない人間に対しては人見知りをしてしまう。
「夏越、私は人の姿はしているが精霊であるぞ。こういうことは、同じ人間であるお前の役目であろう!」
涼見姐さんの言うことは、もっともである。
「う~!」
俺に持ち上げられた國吉は、不快になってきたのか身をよじり始めた。このままだと、落としてしまう。
「ね…姐さん、ど
【まとめ用】紫陽花の季節、君はいない 1〜11話
2021年5月半ば。どんよりとした曇り空。
今年の梅雨は、6月を待たずに到来しそうである。
「夏越くん、そんなに空を見上げていたら首が痛くなるわよ。」
柊司の部屋のベランダから空を眺めていた俺に、あおいさんが話し掛けてきた。
あおいさんは、お腹の子がかなり大きくなってきている為、産休に入っている。
昨年よりも大学院は対面授業は増えたものの、今日みたいにオンライン授業の日は、空き時間に
植物の精【紫陽花の季節、君はいない】
2023年12月28日。どんよりとした曇り空。俺が勤める植物公園は、今日が仕事納めである。
「夏越くん、お疲れ様!」
設備の点検を終え、事務所に戻ってきた俺に園長が話しかけてきた。
「お疲れ様です、園長」
園長とは、初対面の時に正体を知らずに話しかけられたこともあり、人間が苦手な俺でも身構えることなく接することが出来る。
「今年は、ドラマの影響で例年より忙しかったわね」
植物学者が主人公の
紫陽花の季節、今年も君はいない
「紫陽花の季節、君はいない」の番外編です。
2023年6月30日。雨は降ったり止んだりを繰り返している。俺は午後から休みをとって、八幡宮の夏越の祓に参加した。
茅の輪を潜るのは、恋人だった紫陽花の精霊の紫陽を失った時のことを思い起こさせる。それでも儀式に参加するのは、八幡宮に住む精霊たちとの約束だからだ。
夏越の祓を終えて、俺は八幡宮の御涼所に向かった。御涼所にはケヤキの大木が葉を茂らせてお
紫陽花の季節、それいゆ
「紫陽花の季節、君はいない」の番外編です。
2022年6月21日、夏至。
どんよりとした曇り空、俺は朝から気分が落ち込んでいた。
夏至は、俺の恋人だった八幡宮の紫陽花の精霊【紫陽】が消えてしまった日で、今年で丸2年経った。
職場には何とか出勤したものの、どんどん具合が悪くなってしまい、正午になった頃には仕事が出来る状態ではなくなっていた。
「…ねぇ、大丈夫?」
同僚の女性が心配そうに、声を
紫陽花の季節、お迎え
「紫陽花の季節、君はいない」の番外編です。
2022年6月。
あおいさんが職場復帰し、ひなたは保育園に通い始めた。
朝は柊司やあおいさんがひなたを保育園に連れて行き、帰りは俺が迎えに行っている。
通い始めて2週間、ひなたは保育園に慣れて、特に泣くこともなく預けられているらしい。
しかし、俺には悩みがある。
今まで目立ったことのない人生を送ってきたのに、保護者の注目を集めてしまっているのだ