マガジンのカバー画像

さくらゆき ショートショート集

123
さくらゆきのショートショート(企画参加作品・オリジナル作品)をまとめました。
運営しているクリエイター

#澪標

【コラボショートショート】月の世界で眠るあなた

【コラボショートショート】月の世界で眠るあなた

澪さんと再婚し、新潟に住み始めて1年。縁側に座っていると、金木犀の香りに包まれる。

今宵は十五夜。自宅の周りは空き家のため、月明かりが際立って見える。日が落ちる前に近所の空き地から採ってきた芒が潮風に揺れる。

「月の世界から輝夜姫を迎えにきたのは、こんな夜だったのかな……」

いにしえでは、月の世界は死者の世界だと言われていた。僕はこの世を去った前妻、実咲さんに思いを馳せた。

僕がまだ24歳

もっとみる
【コラボショートショート】お手玉の日

【コラボショートショート】お手玉の日

9/20は「お手玉の日」、may_citrusさんの小説「海の静けさと幸ある航海」と「ピンポンマムの約束」の間のショートショートが浮かんだので、書いてみました。

僕の愛妻・澪さんが、職場から大量の端布を持って帰ってきた。

「どうしたんですか、その大量の端布!」

「今度、うちの病院で地域交流のフリーマーケットを催すんですが、担当の病棟の看護師はお手玉を作ることにしたんです」

澪さんの職場は精

もっとみる
【コラボショートショート】香りを交わす

【コラボショートショート】香りを交わす

4/18はお香の日ということで、may_citrusさん原作「澪標」コラボ小説シリーズから、澪さんのご両親のショートショートを書きました。

「お互いのこと、何も知らないので文通しませんか?」
お見合い成立した時、あなたから提案され、文通が始まった。

はじめに送られてきた手紙には、あなたのプロフィールが書かれていた。折り紙で作られた文香が添えられていた。

「お見合いの日、桜が綺麗でしたね」

もっとみる
【コラボショートショート】くまと肉まんと弓張り月

【コラボショートショート】くまと肉まんと弓張り月

1996年、春。
無事に大学生になった俺は、これから始まるキャンパスライフに胸を躍らせていた。

出来ることなら小柄で目の大きな可愛い女の子と付き合いたいと思いながら、構内を歩いていると、後ろから熱い視線を感じた。

「早速、出会いが!?」と期待し、振り返ると、そこには、小柄で目の大きな「男の子」が、キラキラした目でこちらを見つめていた。時代はアムラーブーム、女子高生がミニスカ・ルーズソックスを履

もっとみる
【コラボショートショート】思い出と手を繋ぐ

【コラボショートショート】思い出と手を繋ぐ

11/10は「ハンドクリームの日」ということで、コラボ小説「ただよふ」の、澪さんとお別れした後の航さんのショートショートを書きました。

香水を買いにロクシタンのショップに来た僕は、見覚えのあるハンドクリームを見つけた。

別れた最愛のあなたが、香水とお揃いで使っていたエルバヴェールのハンドクリーム。

僕はテスターに手を伸ばし、クリームを付けていた。

クリームの香りと柔らかなテクスチャー。僕は

もっとみる
【コラボショートショート】あなたが悲しそうな顔で微笑うから

【コラボショートショート】あなたが悲しそうな顔で微笑うから

このショートショートは、may_citrusさん原作「澪標」最終回の後、「もしも実咲さんが夫である航さんのつけている香水の意味に気づいていたら?」というお話です。

私が強迫性障害の治療をしていた頃。

強迫症状が落ち着いている時に入った、夫である航くんの寝室で、黄緑色の香水を見つけた。夫は香水が好きで何種類か持っていたが、会社につけていく、サムライのアクアクルーズよりも特別に扱っているようだった

もっとみる
【ショートショート】人魚の夢(「澪標」6話より)

【ショートショート】人魚の夢(「澪標」6話より)

僕は冷たい海に沈んでいった。
切り刻まれるような痛みが体温を奪っていった。
肉体は指先から泡と化し、今にも消えそうになった。

絶えそうな意識の中で、泡になってしまった僕の体をひとりの人魚が集めていくのを見た。

僕は人魚のキスで目を覚ました。
そこは洞窟の中で、夜の海が見えた。

「間に合って良かった。」
人魚は微笑んだ。

僕は体を起こした。
全身は痛むが、確かに僕は生きていた。

しかし、人

もっとみる