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さくらゆき ショートショート集

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さくらゆきのショートショート(企画参加作品・オリジナル作品)をまとめました。
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記事一覧

初めての【#シロクマ文芸部】

初めての【#シロクマ文芸部】

初めてのお菓子は、拾ってくれた主君からのものだった。
生きるのに必死で、まともな食事をしてこなかった自分を、拾ってくれたのが彼だった。
行き倒れていたところ、懐に入れていた菓子を食べさせてくれたのだ。
後に、それは大切な女性に贈るはずのものだったと知り、申し訳ない気持ちになった。
主君は「菓子はまた今度渡せば良いが、あの時はお前に食べさせないと、手遅れになるところだったからの」と、笑っていた。

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十二月【#シロクマ文芸部】

十二月【#シロクマ文芸部】

十二月から音楽が消えた
クリスマスソングや紅白歌合戦はおろか、今年流行りの曲もない

十二月から音が消えた
サンタの鈴の音も除夜の鐘もない

十二月から楽が消えた
子どもたちの笑い声もクリスマス会も忘年会もない

十二月から十二月が消えた
……

その紙の重さ【#秋ピリカ応募】

その紙の重さ【#秋ピリカ応募】

 家の六畳の離れが私のすべてになっていた。遠くから幼い子どもが高らかに歌う軍歌と、障子越しに見える木の影が、ここから得られる外の世界だった。
 私は死亡率の高い病に罹っており、往診の医者以外に他人に会うことはなかった。戦況の悪化で高額な薬も手に入らなくなり、私の命はここで終わるのだと諦めていた。

 寒い冬の日、久しぶりに障子越しではあるが父がやって来た。

「瑞穂、幼なじみの栄二君に召集令状が届

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風の色【#シロクマ文芸部】

風の色【#シロクマ文芸部】

風の色を視ることで、豊穣を占う風読みの一族がいた。
穀物が豊作の時は、穏やかなこがね色の風がそよぐ。
凶作の時は、鈍色の風が吹き荒ぶ。

「風読みの者よ。今年は豊作だろうか」
王が風読みに問うた。

風読みの若者は頭を下げ、申し立てた。
「王。今年の風は例年になく凶々しいものです。国家を揺るがす凶事が起きるに違いありません」

「風読み風情が、王に箴言を申すな!」
側近の怒りを買い、風読みは洞窟内

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月の色【#シロクマ文芸部】

月の色【#シロクマ文芸部】

月の色は青空に溶けるような白で、存在に気づくのは、この時間に場違いな私ぐらいだろう。

駅のトイレで制服から私服に着替え、ローカル線に乗り込んだ。

ワンマン運転で、乗客もシニア世代の男性が数人だけで、学生だとバレて補導されないか心配だったが、何とか終点まで辿り着いた。

いつの間にか、月は空から姿を消していた。

駅は無人駅で、涼しい風が頬を撫でていく。

観光宿が点在しているが、閑散としている

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懐かしい【#シロクマ文芸部】

懐かしい【#シロクマ文芸部】

 懐かしいものをフリマアプリで手に入れた。スケルトンのキーチェーン型育成ゲームだ。

「あの頃は何でもスケスケだったよね。パソコンにゲームにアイドルに!今は私の方が透けてるけど」
 小学生の姿をした幼なじみの歩が、俺の周りをふわふわと飛び回った。

「いや、笑えないから。これを買いに出掛けた先で階段から落ちて、何十年も意識不明で、目覚めたら幽体離脱してたなんて」
 病院に運ばれ眠り続ける歩の前で、

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流れ星【#シロクマ文芸部】

流れ星【#シロクマ文芸部】

 流れ星が下から上に流れたのを、僕はひとり観ていた。
 地球で生きる僕は、それは不自然な動きに思えた。
 宇宙に地球の常識なんて当てはめるのはおかしいと、思い直した。
 深海に沈む秘密と、宇宙の神秘は、僕にとって等しい。
 規模が違うと、君がいたなら笑っただろう。
 消えた星の光は、どのぐらい前の光なのだろう。
 星に還った君の光は、僕の元にいつ届くのだろう。

朔の日【詩】

朔の日【詩】

ふみづきついたち
はははゆく

あかつきのそらから
こくこくと

うみからうまれし
たいようは

つきをかくして
のぼりゆく

ひとりまどより
ながめしは

さらぬわかれは
かなしけれども

こぼれぬなみだは
いみじけれ

風鈴と【#シロクマ文芸部】

風鈴と【#シロクマ文芸部】

風鈴とすだれが縁側に下げられた古い家。瓦屋根だが、家の中に入ると、茅葺きの面影を残している。

伯母の家に夏休みにやって来た、十三歳の葉七は、昔は明るい性格だったが、中学に進学してからあまり喋らなくなってしまっていた。

葉七は、宿題の読書感想文の為の本を縁側の廊下で読んでいるうちに、いつの間にか眠ってしまった。

「スイカ切ったから、食べにゃあ!」
伯母の明るい声に起こされ、葉七はオヤツのスイカ

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かき氷【#シロクマ文芸部】

かき氷【#シロクマ文芸部】

かき氷がすっかり溶けてしまった

ただの赤い甘い汁を飲み干す

もう待つのはやめよう

夕方の海の塩っぱい風が

始まらなかった物語のページを捲る

久し振りにシロクマ文芸部に参加しました。

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雨を聴く。カリンバの音って、雨音に似ている。
ランダムに鳴らしても、うるさくならない。
ポタポタ、ポタポタと。
https://note.com/komaki_kousuke/n/n539865368be3

グラニュレーション

グラニュレーション

このショートショートは、創作大賞2024に応募する予定だったものを供養するために書きました。

最近ギャラリーに雇われた真中龍史は、水彩画家である荷堂愛佳が絵を描くのを見たいとギャラリー裏のアトリエにやって来た。

愛佳は筆洗の中の水を筆でかき混ぜる。

「真中さん、『グラニュレーション』って知ってますか?」
愛佳はパレットに絵具を充填していく。

「分離色のこと?」
真中の答えに、愛佳は縦に首を

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赤い傘【#シロクマ文芸部】

赤い傘【#シロクマ文芸部】

赤い傘を失くして悲しむ君に、新しい傘を買うことにした。

本当は、あの傘の代わりなんてないのだけれど。

大切に大切に使っていたのに、盗まれてしまった傘。

二度と会えないあの人の、さいごの贈り物の傘。

新しい傘は、あの傘と同じ色と形をした別物。

喜んでもらえなくても良い。

土砂降りの君の心に、少しでも傘をさしてあげたい。

願いを込めて、傘の柄に空色のリボン。

赤い傘を失くした君に、新し

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