046.スプーン一杯の認知症
母のいつも座るテーブルに置いてあった。
認知症が、本人にとって苦しいことなのか、受け入れることが苦しいのか私には、今は、わからないけれど。
曇りの日は別人
私に仕事はどうなっているかと何度も聞いてくるが、私を心配しているわけでは無くてて、電話が出来るかどいうかの確認だと思う。
午前10時くらいに曇っている日は、母から電話が掛かる。
その日も電話が、何度も鳴った。納得いくまで掛かる電話。こっちも根気よく対応するが、たまに心も折れる。
父は、そんな天気の日は、早めに家を後にしてパチンコに行くらしい。母は、平気な声で私に電話を掛けてくる。
「仕事?今一人なんよ・・・」そう滑り出したら、恨み節に変わる。
「父ちゃん、女がおるんよ!」妄想ではあるが、本当の話のように話すので、初めて聞く人はびっくりするだろう。90歳になろうとするお爺さんに、浮気をして娘くらいの彼女が、本当にいるなら、私は誇らしい。
残念ながら、いない。
母は、1人家にいることが辛い様子で、裏で死ぬと言うか、パチンコ行くと言うか、たいていどちらかに着地する。
その日は、私は車で1時間以上遠くに居たので、行かれないと伝えた。しばらく話を聞いて、電話を切った。3~4回かかった。
「で、どうやったっけ?」
最終的に
「行かれんけど、夕方寄ろうか?」と言うと、急に声が明るくなって、
「じゃ、待っておくね!」と切った。以後、その日は、電話が無かった。
心のどこかに、埋められない隙間を無理やり埋めようとすると、何か歪みが出てくるのかもしれない。
広い海の真ん中に、小さな島があって、その島の真ん中に岩が切り立っていて、その上に立たされている。
私の思う孤独。
気づかれることない、その状況に不安なのか、そのものから落ちていくのが不安なのか…大袈裟かもしれないけれど、あくまでも私の想像の一番先っぽ。
母は本当に認知症なのだろうか。