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耳屋⑥-2 マサミの話

耳屋さん、もし良ければ飲み物お代わりして。

耳屋はもう一度、チョコレートミルクを注文した。

耳屋さん、甘党?


私は、店員さんが耳屋の前にチョコレートミルクを置いて立ち去って行く後ろ姿を見てから、話を始めた。


マサミはね、派手な服装がとても似合う小柄な同期の子。
私は、マサミのスパイスが効いたトークが大好きだった。

私とマサミは、会社を辞めた時期も近くて、同じ年に結婚したからか、同じ時期に同じような人生の選択があって、全て逆の事を選んだような気がする。

結婚して1年程経った頃に同時期にむかえた離婚の危機で、私はもう少し頑張る事を決意し、その後子供を授かった。
マサミは、離婚を決意して、仕事を頑張る事を選んだ。

そんな経緯もあったから、私の中でマサミは「私が選択しなかったもう1つの自分の人生」を生きてる気がしてたんだ。


マサミは離婚後、整体の学校に通って、整体やアロマのお店を開くために忙しくしていた。
彼氏も出来て、1人の大人としてとても充実した毎日を過ごしている様に見えた。


私も子供が産まれて、家の事、子供の事を殆ど何もしない旦那とは上手く行っているとは言い難かったけど、忙しい日々を過ごしてた。

自分の思った事をしているマサミを眩しく思いながらも、たまーにメールで近況を伝え合っていた。


子供が10歳を超えた頃、私が韓国旅行をしたくなり、コスメ好きのマサミに1年ぶり位でメールを送ってみた。

返事が遅いのは、忙しく仕事を頑張っているマサミだから、いつもの事だった。
でも、時間がかかっても必ず返事をくれてた。


メールを送ってから1週間ほど経った頃、マサミのお姉さんからメールが来た。



マサミは、1週間前に交通事故で亡くなって…。



ちょうど韓国旅行のメールを送った辺りに亡くなってた…。
マサミのお姉さんは、マサミのケータイの暗証番号を何度もトライしてやっと開けて、最近連絡をしている人に連絡をしてみたとの事。

もし、わたしがマサミに韓国旅行のメールを送らなかったら、マサミの死について知るのはもっと遅れていたのだろうと思う。


翌日、マサミの自宅を訪ねた。
お父さんとお姉さんが迎えてくれた。

遺影が、私の知ってるマサミと全く違ったので、これはマサミではないかも知れないって、何度も思った。

マサミは、離婚後付き合い始めた彼氏と10年以上付き合い続けていたのに、ご家族は詳しくは知らないようだった。

私が知ってるマサミの華やかな顔は「マサミが生きてる顔」で、遺影は多分「家族の中でのマサミの顔」だったのだろうと思った。

私が知ってるマサミなら「こんな写真を遺影に選ぶなんて!」って、絶対に怒ってる。



私は、子育てや旦那に疲れた時に「死んでしまいたい」って何度も思った事があるのにのに生きてる。
なのにマサミは、彼氏とも上手く行ってて、お店の事も頑張っている最中だったのに、亡くなってしまった。


何で、私じゃないのって…。


…なんか、オチのない話だったかな…?


耳屋なので、オチなんて要りませんから…。


話せて良かった。
私は小さく頷いた。


おわり



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