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「ノケモノと花嫁」完全版のストーリーを追いつつ考察してみる3~イタルが生まれるまでの愛のお話~
表紙は中村明日美子と幾原邦彦のノケモノと花嫁+より引用。
※全巻読み終わった人向けなのでネタバレ全開です。
※※あくまでも自己解釈です。また再読して編集するかも。
考察するにあたってこのように考えました↓
・ストーリーは現実世界と燃えるキリンの世界(精神世界)に分かれている。
・燃えるキリンの世界は、世羅ヒツジが見ている夢(精神世界)に近いのかなと。
・ただその精神世界は完全な幻ではなくて、現実世界にも干渉できている。
・登場人物の一部(世羅晶午など)は輪るピングドラムの眞悧みたいな、亡霊のような存在。
・コドモ=虐待児(通常の意味もある)
・オトナ=虐待親(通常の意味もある)
・キリン=燃えるキリンのコドモ。虐待を受けたコドモたちの負の意識の集合体。
・キリンの血=全てを可能にする呪われた血のこと。燃えるキリンのコドモたち全てがもつ力。
・燃えるキリンの世界=現実をもとにした精神世界(キリンの血の力で現実世界にも干渉する?)
・燃えるキリンの集団=オトナを殺しコドモを助けるための組織
・虐待は親から子へと連鎖しており、虐待の連鎖の輪から抜け出すためには、他者からの愛情が必要。
1、2でも書きましたが、上記のように解釈して考察しています。
ヒツジに愛されたことでキリンからクマへ変化したイタル
羽熊塚を名乗る前の麒麟塚イタルは、燃えるキリンの組織メンバーとして、兎河ギンと共にオトナを殺しコドモを救う活動をしていた。
功績はなかなかだったのではないでしょうか(小説版ではそうだった)。
だけどある日助けたコドモの姿をみて、複雑な感情を自覚する。
昔のギンと同じように鎖で繋がれ虐待されている男の子をオトナから助けた麒麟塚イタルは、男の子に「もう大丈夫だよ」と声をかけた。
でもその男の子は、手を差し伸べたイタルの手のひらに自分の親の血を見て泣き叫ぶ。
ショックを受けるイタル。
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ここのシーン、男の子と生前の青髪のギンの境遇が似ているんですよね。室内に鎖で監禁されているし。
助けたイタルに対して、感謝よりも恐怖を感じた男の子は泣き叫んでしまう。
それって最終巻でも出てきた、ギンの「本当は誰も殺したくなかった。殺されていたとしても自分が殺すくらいなら殺したかった。」という気持ちとかぶる部分があると思う。
これは世羅晶午の徳大寺に殺してほしかったという気持ちとも似ているのかも。
虐待をしていたとしても親は親だし、自分が親を殺すくらいなら、自分が殺されたって良かった。
なんとも苦しい話。でもこれが虐待されていたコドモやギンの本心の一部でもあるんだろうな。
その後複雑な思いを抱えたまま燃えるキリン本部へ戻ったイタル。
地下室には愛されないまま亡くなったコドモの死体が並んでいる。(RUNAWAY5「怪物の夢」でヒツジが迷い込んだ地下と同じ。)
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それを見て「さびしい」と涙を流すイタル。燃えるキリンの活動をしていて同志もいるはずなのに何故なのか孤独が癒えない。
そこにRANAWAY5の「怪物の夢」と同じく迷い込んだヒツジが現れる。
愛されないまま死んでいったコドモを「愛してる」と言って葬ってあげるイタルに優しさを感じたヒツジは、イタルに愛してると伝え、結婚の約束をする。
イタルはいつの間にか制服からクマのキグルミ姿になる。
おそらくここから麒麟塚→羽熊塚イタルへと変わった瞬間。
イタルはヒツジに愛されたことでキリン→クマへ変わった。
燃えるキリンの輪から抜け出る可能性を手に入れたのかも。
もともとイタルは実体のない概念のような存在で、ギンやエイジとは違い身体も持たない姿のない存在。
麒麟塚イタルは愛されたことがなかったが、ヒツジの愛情によって変化し羽熊塚になった。それをクマに堕ちたという表現をするのは、燃えるキリン的には業火を使えるキリンよりもクマの方が格下だからかな。
キリンの業火は悲しみなど負の感情を糧にしているみたいだし。
ただ、ギンに対してのイタルの裏切りはひどい。
ここで小休止なのですが、ギンからすると仲間として組織に誘ってきた相手が「結婚するから組織辞めるわ!苗字も変えて心機一転するわ!」とか言い出したら「裏切り者!!ふざけんじゃねぇ!!!」ってなりますよね。
しかも決定的なセリフ「お前、母親に似てきたな」はないでしょ。さすがに。
酷すぎる笑
でもイタルもイタルでやっと見つけた自分を愛してくれる人との結婚…そして世羅→ヒツジに受け継がれつつあった虐待の連鎖を止められる可能性。
ギンとアリス、イタルとヒツジは切っても切れない関係だし、仕方がない…のかもしれない。でも私はイタルひでぇwと思いながら読んでました笑
生まれてから殺されること、愛されないことの苦しみを知った
話を戻して、生まれる前の存在であるイタルは、愛されずに死んでゆくコドモたちを見てきたので「生まれてから殺されることがなによりの不幸」だとわかってしまった。
それまで生まれることすらできなかった自分が一番不幸だと思っていたのに。RUNAWAY109「私たちの約束」では、それを語っています。
けれど、キリンに飲み込まれたイタルを探しに来たヒツジに「愛してる」と告げられたことで、オトナをただ憎む存在であるキリン→クマに変化した。
そして、生まれることが恐ろしかった→愛されたことで生まれる決意する、へ意識が変化したのかな。
オトナを憎むキリンとして生きてきたところを、愛していると洋子=ヒツジから告げられたことで、燃えるキリンの虐待の輪から抜けて未来に生まれる存在になったのかな。
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イタルの正体は結局何なのか
燃えるキリン世界のイタルとヒツジは結ばれた。
現実世界の洋子は長い植物状態から目覚めて、ギンの身体を受肉し人間となったイタルと再会する。
燃えるキリンの世界に残ったギンの話からすると、クマの姿ではお見舞いにも行けないだろうから現実世界での身体はイタルにくれてやったとのこと。
じゃあ最後のページに出てきた青年はやっぱり、青髪のギンの身体を貰ったイタルなんですね。
堕胎した洋子と世羅の子の一部が前のイタルだったとしても、復活した青年ギンの身体を受肉したイタルと2人でだったら、虐待の連鎖を乗り越えていけるんじゃないかという気がしてくる。あと、倫理的にもクリアはできている…はず。
イタルは、ヒツジと過ごした羽熊塚イタルと世羅洋子が堕ろしたコドモだけではなくて、生まれる前の存在のコドモたち複数を兼ね備えている存在なのかもしれない。
それと、ヒツジとアリス、イタルとギンはそれぞれニアイコール的なところもあって、全てを切り離せる存在ではなさそう。
ノケモノと花嫁は愛によって虐待の連鎖を断ち切る話だった
キリンの世界だけでなくて現実でも洋子(ヒツジ)とイタルは結ばれたと思います。
この2人、ほんとに好きだ。
作品の最後にもあるように2人で華麗にハッピーエンドを迎えたと信じてる。
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後から気づいたのですが、このポストカード見たら完全に大人イタル×洋子じゃないですか???
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スペシャルエディションの特典のポストカードの絵柄(著作権の都合上全部は載せられない)を見ると、現実世界でも洋子とイタルが結ばれたと解釈します。
虐待の連鎖を断ち切ることができるのはやっぱり愛だった。
ノケモノと花嫁は、愛し愛されることによって救われてゆくコドモ達のお話だった。
思えばノケモノと花嫁は、最初KERAで読んでいた小説が完結し、漫画が始まり、その後移籍なんかもして、一時期は無事完結できるのか?と思うこともあった。でも中村明日美子先生はしっかり描き切ってくださって、徐々に色々な謎も解けていき、無事華麗なゴールインまでを見守ることができた。
最後まで見届けることができて本当に良かった。
本当に好きな漫画なので、折を見てまた読み返したいと思います。
華麗にゴールイン!
完全版コミックスは全4巻
ノケモノと花嫁考察記事まとめ
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