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産業医の法的権限:勧告権について

合同会社さくらSOC労働衛生コンサルタント・産業医事務所です。

産業医は、労働安全衛生法の中で、事業者側に対して勧告権を持つことが定められています。

産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。

労働安全衛生法第13条第5項

産業医の立場で、事業者側に意見を述べる場合の、その強さは、「助言」<「指導」<「勧告」という感じです。つまり、産業医の勧告は、法的拘束力はないものの「重いもの」です。

ですので、少し前の話ではありますが、とある産業医講習会で発言されていた先生で、武勇伝のごとく、私は何度も勧告権を出したことがあると発言されていた先生がおられて、驚いた経験があります。

ところで、2019年4月の産業保健体制に関わる複数の法改正の中で、この勧告権についても、改正が入っています。

第十四条の三 産業医は、法第十三条第五項の勧告をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告の内容について、事業者の意見を求めるものとする。
(第2項以下 略)

労働安全衛生規則第14条の3第1項

この条文はその改正によって追加された条文です。要するに、勧告する場合は、いきなりやっちゃだめですよ。事前に会社側とよく相談してね ということです。

この法律改正から、何を読み取るかということですけど、

事業者と産業医の対話の促進

を国は求めているのだと考えます。私はその国の方針に同意します。

但し、産業医の矜持として、中立性 を忘れてならないと自戒をこめて申し上げたいと思います。

産業医が揶揄される一つの表現に「ブラック産業医」というものがありますが、これは、産業医が会社側の一人として、完全に労働者と対立構造にあって、労働者の不利益に、会社側の利益にのみ、極端に肩入れするいけていない状況を指します。たしかに、事業者は自分への報酬を支払う側なので、そちらに忖度し肩入れするインセンティブが発生しやすい構造的な問題があります。特に、専属産業医の場合は、事業者と雇用契約を締結することが多く、その構造の影響を受けやすくなります。それを改善する方法として、B to B のビジネス上の対等な関係で、企業と契約を結ぶことが考えられます。雇用は、たしかに産業医自身が労働法の保護下に置かれるというメリットが発生するので、それはそれでよいとは思うのですが、中立性の保持という面で上記のような危うさがあるのは否めません。一方、産業医が独立開業することは、労働法の保護は薄くはなりますが、B to B のビジネス上の対等な関係を構築する上で理になかった方法であると考えます。

また、臨床が主で産業医がアルバイトの位置付けの先生の中には、極端に労働者側(≒患者側)に肩入れして、労働者に寄りすぎて、職場の実務上に反映しようのない産業医意見となってしまい、事業者側を困らせてしまう場面もまま見受けられるように思います。これもまた、中立性という観点からは、いけておりません。上述した、武勇伝的勧告権乱発は、こういう労働者
寄りすぎマインドの産業医から発せられるのかもしれません。

産業医をガチでやり抜くためには、対組織とのコミュニケーション能力と対個人とのコミュニケーション能力の両者をどちらにも偏り過ぎることなくバランスよく日々向上させるように自己研鑽を続けていかねばならないと私は考えます。