徹夜ゲームと告白
「っしゃー! ナイスチャンピオン!」
「これでやっとランクアップかぁ~~~~! 長かった~・・・・・・んっ!」
ヘッドフォンから微妙に艶めかしい声に続いてふぁあっとあくびが聞こえてくる。
富士山登頂並の達成感と共に釣られてあくびをした俺は伸びのついでに外を見る。
「・・・・・・もう朝ってマジ?」
「・・・・・・え?」
・・・・・・と、一瞬で現実に戻された。
それと結局なずなへの告白も行っていないことを思い出し、二重の意味で俺は固まる。
フリーズした俺の内心など知るはずもなくなずなは口を開く。
「ちなみに今日って実は祝日だったりは・・・・・・」
「・・・・・・しないんだよなぁ」
「だよねー・・・・・・」
二人揃ってはぁ~~、とクソデカため息をつく。
学生たる俺たちは今から2時間後には学校に登校しなければならないのである。
「ゆうたがランクアップするまで耐久しようなんて言うから・・・・・・」
「でたよ今世紀最大のお前がそれ言う案件。最初に言ったのなずなじゃん」
「でたよ史上最大のお前がそれ言う案件。今日中にランクアップしたいなぁって言ったのゆうたじゃん」
「でたよ宇宙始まって以来の・・・・・・ってこんなことしてる場合じゃねえ。少しでも寝ねぇと。じゃ、まあ学校で」
そんなクソほど益体もないが割と楽しい会話に告白する気の失せた俺は通話を止めようとpcの電源を切るべくカーソルを動かす。正直ゲームを続けていたいのだが、成績がまずいことになりかねないのでサボるわけにはいかない。
「・・・・・・サボらない? 学校」
と、なずなが不安げにぼそっと呟く。
「あ?」
俺は彼女の印象から少し乖離したその台詞に理解が追いつかない。それは毎度恒例となったゲームを止めたくない俺の台詞だ。
なずなが顔は見えないがぱちぱちと瞬いたのが分かる。
「・・・・・・え、あれっ? もしかしてそこにいるのゆうたじゃない?」
「判定基準おかしくない? まあ、微妙に納得できるのが微妙なんだけど」
「あ、やっぱりその微妙な語彙はゆうただった。ごめんなにもない」
「いやだから微妙に納得できる微妙な判断するの止めような!」
なずなの笑い声が鼓膜を震わせた。
けれどそこには
「・・・・・・どうした?」
明確な違和感があった。
不安に渇いた笑い声だったのだ。
しばらく黙り込んだなずなが口を開く。
「・・・・・・あー、今日高橋くんに一緒に帰ろうって誘われてて」
「・・・・・・言ってたな、そういえば。告白されるかもって」
「うん・・・・・・」
小さく頷くなずなに思い出した。
寝ぼけていたせいで忘れていたが俺はそれが理由でなずなに告白しようと思っていたのだ。誰かになずなを取られるのが嫌で、気持ちをぶつけてしまおうと思っていたのだ。
「・・・・・・高橋のことは友達としか思ってなかったんだよな。というかそもそも今日なずなが俺に電話してきたのそれが理由だったな、悪い。結局何も解決せずにゲームやっちゃったな」
初めは真面目にどうすべきか話していたのだが何も話が進まなくていつものようにゲームを始めてしまったのだ。
「うん、それは本当に反省して欲しいんだけど」
「おい」
なずなが笑みを漏らす。
「うそうそ。でも本当にどうしよっかなぁ・・・・・・高橋くんとは友達のままでいたいからなぁ」
「・・・・・・」
なずなは優しい。なずなと高橋はすごく仲のいい友達だ。そんななずながどんな選択をするのかは容易に想像が出来てしまう。
「ん~~~~~っ、まあ、悩んでもしょうがないかぁ。ごめんね、なんか付き合ってもらって」
「・・・・・・うん、大丈夫」
「じゃ、また学校で」
「・・・・・・なずな」
「ん?」
なずなが好きでしょうがない。
「・・・・・・俺」
口の中が渇く。汗で湿る手で拳を作る。震える喉を押さえようと湧かない唾液を嚥下する。
「どうしたの? 何か悩み事?」
顔が見えていないのが幸いだ。今の俺はきっととても醜い。
「・・・・・・何もない。じゃ」
「え? あ、う、うん」
切れた通話にヘッドフォンを外して息をつく。
要するに告白する勇気が湧かなかった。
どちらに転がるにせよ今の関係が変わるのが怖かった。
気軽に話せて一緒にいれば普通に楽しくて一緒になってゲームに熱中できる今の関係を手放したくなかった。
・・・・・・とめどなく溢れ出てくるネガティブな思考を頭を振って無理矢理払ってベッドにダイブする。
「・・・・・・」
側に置いてあったスマホに手を伸ばし時間を確認する。
登校まで2時間弱。
タイムリミットまで2時間弱。
「大丈夫。寝よう」
布団を頭からかぶって光を閉ざす。
脳内を巡るのはなずなとのことだ。
最初に喋ったのは席が隣だったからで、適当に話してたら同じゲームをやっていることが分かって。それから実力が近かったからどんどん一緒にやる機会が増えていって、席が離れてもほとんど毎日遅くまで通話を繋ぎながらゲームするようになって。そのうち別のゲームをやったりとか、これは数回だけど遊びに行ったりとかもして。親を除けば1番喋ったのはなずなだし、今までで1番仲がいいのもなずなだ。なにより死ぬほどかわいい。周りの奴らは気づいてないようだが、少しつり目がちのくせに笑うと目尻が下がってギャップがやばい。まつげめちゃくちゃ長いし、肌とかやばい。なめらかで綺麗でいつも思わず見入ってしまう。しゅっと通った鼻に艶やかな唇。それと声。高めで少し舌っ足らずで言葉選びがかわいい。加えてその優しさになにより惹かれる。何度なずなに救われたことか。きっとなずながいなければ俺はすでにどうにかなっていたとすら思う。
「・・・・・・あ~~~~~~~~~!」
いても立ってもいられなくなった俺は布団を押しのけ身体を起こしスマホをひっつかみなずなに電話をかける。
「ゆうた?」
数秒と待たずしてなずなの声が聞こえてきた。
もう俺に迷いはなかった。
「今日の朝迎えに行く。聞いて欲しいことがある」
「ぇ」
声にならない声が聞こえた。
返事を待つ。
「あ、ご、ごめんね。びっくりしたから」
なずなが鼻を啜る。
「・・・・・・うん、わかった。待ってるね」
「ん」
「あ」
電話を切ろうとしたところでなずなが上ずった声で言った。
「わたしの期待と違う内容だったら怒るから」
「俺がどんだけなずなとデュオ組んでると思ってるんだよ。なずなの考えてることぐらい分かる」
「・・・・・・うん、だよね。じゃ、また」
「おう」