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女性の権力「奢り・割り勘論争」

はじめに

 いまネット上の奢り・割り勘論争が非常に盛り上がっている。「女性の権力」に関して記事を書いていた私も、「女性の権力」の視点で「奢り・割り勘論争」に関する小論を時勢に呼応して述べる。別のシリーズもまだ完結していないのだが、時機を外してしまいそうなので割り込む形で今回の記事を書くことにした。

1.奢り・割り勘論争の契機

 かなり昔からある奢り・割り勘論争がまた再燃した。切欠は人気セクシー女優・深田えいみ(24)の2023年2月12日の以下のツイートだ。

デート代、なんで男が払わなくちゃいけないのって言葉 女性はそのデートの為に準備して洋服、メイク、美容代も入ってると思う 全部安くない。リップだってブランドなら4000円はする 可愛いって言って欲しくて、その為に凄く早起きして準備してる それを考えた上で女性に出してあげて欲しいって思う!

人気セクシー女優・深田えいみ(24)の2023年2月12日のTwitter上での発言

 また、これに同調するかのように、元AKB48でタレント・大島麻衣(35)が2023年2月19日に自身のYouTubeチャンネルのライブ放送で以下の内容を配信した。

デート代を男性がおごらないといけない理由が、私の中で3つあります。デートのために女性は美容室に行きます、ネイルに行きます、新しい服を買うことだってあります。あなたよりも2時間早く起きてメイクをしています。あと、あなたのために新しい下着を買っています

元AKB48でタレント・大島麻衣(35)の2023年2月19日のYouTubeチャンネル上での発言

 なかなかにツッコミどころの多い主張なのだが、この主張自体には当記事では批評はしない。

 また、ネット上言論状況に関して、この二人の発言に賛成反対色々な立場で議論が交わされ、なかなかに賑やかなことになっている。独身問題研究家の荒川和久氏、ひろゆき氏、タレントのフィフィ氏、元プロゲーマーのたぬかな氏、YouTuberのヒカル氏など硬軟取り揃えた論客が議論に参加している。また、各論者の提出する論点も様々で、論点マップを作るとしてもなかなか大変な作業になるような状態になっている。

 このように「奢り・割り勘論争」は多様なトピックで語られているのだが、以降では女性の権力の観点に絞って議論を進めていきたい。

2.デートで女性が保有する権力性

 デートのシーンで「男性が奢る、奢らない」論争はネット上を含めそこかしこで行われている。それらの論争で女性は恐らく違和感を感じたことが無いだろう点をこれから指摘しよう。

 とりわけ、フェミニストがしたり顔をして慈悲的女性差別として取り上げ、「女性は自分で自分のメシ代ぐらい出せる。女性が自分のメシ代を出す意思を確認することなく、勝手に男性が女性のメシ代を奢るのは女性蔑視だ!」と言い出すその場面にこそ、女性のデートにおける権力性が現れることを見ていきたい。

2.1 金銭負担から見る女性の権力

 「デートにおける食事代の支払い」は、単純に考えれば以下のパターンが考えられる。

  1. 男性が全額出す

  2. 男性が多めに出す

  3. 男女で割り勘

  4. 女性が多めに出す

  5. 女性が全額出す

 支払いのパターンは上記の5つのパターンであるにも拘らず、論争になるのは「1.男性が全額出す,2.男性が多めに出す,3.男女で割り勘」の3パターンである。パターン4やパターン5が論争に登場しても、ほとんどが「前回のデートで男性が奢った」という留保条件付きで登場する。稀に「二人の所得に応じて払うべきなので、女性の所得が男性よりも多いならば、女性が奢るべき」という主張が出てはくるがかなり例外である(ただし、この場合も「女性の所得が男性よりも多いならば」との条件付き)。

 取られ得る選択肢の非対称性が男女のデートにおける権力の非対称性を示している。「男性が奢る-女性が奢る」が均等に存在しないなら、そこには差別がある。「割り勘」が良いと考える割合は、マクロ的にみて差別には影響しない。

 「『男性が奢るべき』と考えている人間の男女比でみれば男性が多い」などと指摘し、「男性が奢る慣習」は男性差別ではないと主張する論者もいるが、それはかなり的外れである。デートにおける男性差別構造に関して女性よりも男性自身が維持強化しているという話であって、それはこの構造による男性差別とは切り離して議論されるものだ。

 フェミニストが現代日本における女子高校生の文系理系の進路選択の偏りに対して「それは日本社会に存在する女性差別なのだ」と主張するとき、たとえ当該構造が生じている原因が女子学生自身の意志に基づく選択の偏りであっても、日本社会の女性差別構造としている。つまり、女性自身の意志によって女性差別的社会構造が維持強化されていたとしても、その構造は女性差別としているのだ。その理屈に従えば、デートにおいて男性自身の意志でデート代を負担していたとしてもそれは日本社会の男性差別構造である。

 また、デートの食事代に関して、女性の自己負担率が0%~100%であるのに対して、男性の自己負担率は100%~200%という圧倒的に男性不利な金銭負担割合は明らかに差別と言える。女性は相手の食事代を支払う形で搾取される可能性がほぼなく、寧ろ自分の食事代を相手に支払わせて搾取する側である一方、男性は自分の分を支払うのは当然として、悪ければ相手の食事代も支払わなければならない搾取される側である。

女性がデートで保有する権力性の一つはこの金銭負担に関するものである。


2.2 男性に自分の判断を先に申し出させる女性の権力

 次に、女性がデートで保有する最大の権力性をみていこう。

 女性がデートで保有する最大の権力性は、デートでの食事代の支払い方を評価する絶対的な権力を持っていることである。フェミニズムを信奉するか否かに関係なく、(男性の)デートでの食事代の支払い方をジャッジするのは女性である。

 男性は当然ながら自己の判断で食事代の支払いを決める。この精神的な決断コストを支払った男性の行動展示を受けて、女性は自己の判断と評価を行うことが出来る。

 食事代の支払いに関して男女どちらの判断が優先されて食事代が支払われたとしても、支払いの在り方を最終的に評価するのは女性である。「奢らない男性なんて駄目ね」「私は奢ってもらいたいなどと一言も言っていないのに、勝手に支払うなんて女性の意志を無視しているわ」等、実際の食事代の支払われ方の決定とは無関係に、支払われ方への評価が下される。

 「男性だって女性の支払いの姿勢で女性を評価するではないか。だから男女は対等だ」という決断の時間軸を無視した意見が出ることもあろう。

 だが、それは後出しジャンケンの有利さを理解しない意見である。「奢りますよ」「割り勘でお願いします」(あるいは、まずあり得ないが「あなたが奢ってください」)と男性が申し出た後に、女性は自分の意見を表明できるのだ。つまり、先に相手に自分の判断を申し出させるような権力を女性は持っている。そして、相手の申し出を検討し評価した後に自分の判断を女性は下せるのだ。

 この男女の関係は、部下の行動を上司が評価する上司-部下の関係のように、男性の行動を一方的に女性が評価する上下関係である。また、この関係において男女の行動が批評されるにしてもその在り方は異なる。

 譬え話で説明しよう。

 その関係は選手と監督のような関係である。選手のプレーをみて監督は判断する。試合後に選手のプレーも監督の采配もそれぞれ批評されるが、それは決して選手同士がお互いのプレーを論評し合うような対等な関係ではない。監督への批評は、大元の「選手のプレー」をジャッジした後に、監督がそれに適切に対応できたかといった形になる。

 男性の行動を一方的に女性が評価する上下関係があるからこそ、先に男性に行動させるのだ。男性の行動展示を眺めてから、女性は自己を選択を行うことが出来る。その関係性は結局のところ、他の動物種でみられるような、求愛ダンスを踊らねばならないオスと、求愛ダンスなど踊らず単に番となるオスを選ぶだけのメスの関係と同じである。この二者間にはハッキリとした権力性がある。

さいごに

 奢り・割り勘論争は、はじめに述べたように様々なトピックがある。

「ジェンダーロール」に注目するトピック
「ジェンダーロールを維持強化する言説の流布」に注目するトピック
「男性が奢るべき論」の理屈の内的な妥当性のトピック
「割り勘にすべき論」の理屈の内的な妥当性のトピック
「奢り・奢られる行為全般の規範」に関するトピック
「奢る男性・割り勘にする男性」に注目したトピック
「奢られる女性・割り勘にされる女性」に注目したトピック
「奢り・奢られる状況、割り勘にされる状況」に注目したトピック
「奢り・割り勘論争に参加した個々の人物」に関するトピック
「奢り・割り勘論争を議論する人たちの人物像」に注目したトピック
「奢り・割り勘論争が生じる社会・経済情勢」に注目したトピック

など議論百出である。

 そういった様々なトピックの一つとして「男性が女性に奢る・あるいは割り勘にするという構造の中に存在する女性の権力」を見てきた。

 このトピック自体では「だから男性が奢るべき」や「だから割り勘にすべき」といった結論を導くものではない。とはいえ、フェミニストが主張するジェンダー平等の価値観からいえば、無くすべき権力構造であるのは確かだ。



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