【ふくい10月旅】若狭町:住んでいる人が、住み続けたいまちを創りたい。一般社団法人SwitchSwitch代表理事 阪野真人さん
▶阪野真人(ばんのまさと)さんプロフィール
目次
福井県三方上中郡若狭町の福井県立年縞博物館に併設されているcafe縞前の広場。小高い丘でもあるここで、三方湖の大自然を背景に、取材に応じてくださっているのは、一般社団法人Switch Switchの代表理事をされていらっしゃる阪野真人さんです。
地域活性化事業のひとつとして携わっていらっしゃる三方湖の伝統漁法「たたき網漁」のお話を基に、地域を支えていかれる活動のなかで日々感じている課題や、地域のより良い発展のために推進されていらっしゃることなどをお伺いしました。
▶三方湖の三つの伝統漁法について
三方湖では主に、鯉や鮒、鰻がとれるんですが、1月から3月の寒い時期は、400年くらい続く伝統漁法であるたたき網漁が行われているんです。
たたき網漁とは、冬の間、動きが鈍くなって水底にもぐっている鯉や鮒を、水面を竹でたたいて驚かせ反対側にある網に追い込む、追い込み漁みたいなものです。三方湖は最大水深でも5.8メートルくらいの浅い水深なので、地引網ができないということもあって行われる、独特の漁法です。
三方五湖には三つの伝統漁法があって、春から秋には、うなぎの筒漁や、柴漬け漁という漁法もあるんです。
▶伝統漁法はサスティナブルな漁法
いま、SDGS的視点があらゆることに求められていますが、伝統漁法そのものが、サステナブルな漁法といえます。一網打尽ではなく、大量にとりすぎない。とりすぎて漁業資源が枯渇してしまったら、400年も続きません。ほどよくとって 、環境に負荷が加わらない形だから、長年続けてこられたのです。
いまの時代からすると、見直すべき視点だなと学ぶことが多いですね。
また、このあたりの地域はラムサール条約もあり、うなぎも鯉も稚魚を放流させたりして絶やさない努力も行われています。
▶漁師さんの担い手不足や環境問題
冬は観光オフシーズンなので、観光オフシーズンに今の人たちがあまり食べないような淡水魚をとっているから、漁師さんの収入が減ってきているんです。収入が減ってくると、担い手も減ってしまうから、超高齢化産業になっている。専業で漁師さんというのはいらっしゃらないですね。みな、サラリーマンをしながら漁師もされていらっしゃる。
以前は、ハスという魚もいましたが、水質が変わって、ここ20年くらいは確認されていませんね。水質悪化や環境変化に伴って、魚が以前ほど、とれなくなっているのも問題になっています。
うなぎは、もともと三方湖に生息していたのですが、湖岸沿いに道があるので、湖岸をコンクリートで固めて護岸してしまうことで、うなぎの隠れ家である枝がいっぱい倒れていたりなどが少なくなり、うなぎ自体も減ってきているというのは、あると思います。
▶三方湖の冬の鯉や鮒の美味しさ
冬の鮒は泥臭くないんですよ。淡水魚の泥臭いイメージは餌の匂いからくるんですが、冬の間は底にもぐって餌を食べなくなるので、臭みがないんです。また、いくつもの川が流れこみ、海水と淡水が混じり合った気水なので、魚の栄養となるプランクトン豊富なのです。あらいにしなくても、そのまま食べれて美味しいので、地元の人はお刺身にして食べています。
そのほか、観光シーズンに向けてフナを冷凍して、フナバーガーにして販売したりとか。
フナや鯉は、海外ではいろんな食べ方をしているんですよ。インドではカレー、オーストラリアではバーベキューで、まるごと焼いたりもしています。インドネシアでは、フライにもしていますね。
食べてみると、美味しい白身のさかなです。淡水魚は臭いというイメージがどうしてもあるんですが、三方湖の淡水魚は刺身でも食べられるくらいですから、ぜひ試食してほしいですね。個性があって、海のさかなより美味しいという人は、いっぱいいますので。
▶寒ぶな缶詰誕生ストーリー
たたき網漁は冬に行うので、夏場の観光シーズンの人にも食べてもらうためにはどうしたら良いかという課題は意識していました。その後、オールシーズンで食べていただけるよう鮒の缶詰を作るプロジェクトが立ち上がり、この五月に完成しました。
小浜市の若狭高校に海洋科学科があって、そこが本当に素晴らしい高校なんです。
宇宙に持っていく「宇宙鯖缶」を開発したりしているところなんですよ。
生徒さん3名と一緒に、ああだこうだいいながら、鮒を缶詰にすることで、夏場の観光シーズンの人にも食べてもらえるところまで、最初は決めていました。
味つけや調理法をどうしようかというところからスタートして、右往左往するなかで、若者向けにトマト味も美味しそうとか、自分たちで試食してみたりなどいろいろ作って試してみるなかで、最終的に漁師さんが普段から食べている「甘辛の煮つけ」を再現しようということになって、にこごりができるような感じで作りました。
製造は缶詰工場に協力していただきました。
高校生たちの良いアイデアがあっても、発案だけで終わってしまうことが多いから、やるからには商品にしていこうと皆で頑張ってきたかいがありましたね。
▶三方湖周辺と福井梅
三方湖は、三方五湖のなかでも、ほぼ淡水湖なんです。右手に見える、はす川からの土砂を一回ためてくれるので、こされる感じになって、隣接の水月湖に土砂が流れずにすむといわれています。
一方で、一万四、五千年前くらいから鳥浜貝塚もあり、非常に歴史的価値も高い土地なんです。
三方五湖のまわりでは梅農家さんも多く、ふくい梅を栽培しているんです。福井梅の歴史は古く、1830年に若狭町で最初に植えられた梅の木が発祥と言われています。梅は和歌山が有名ですが、このあたりは、日本海側では最大の梅の産地なんですよ。国道から奥に行くと、どんどん梅畑が広がっているんです。三月くらいに花が咲いて、六月の収穫の頃は、地域も活気づいて梅農家さんも忙しくなりますね。
▶今後の展望
三方五湖とその周辺って、まだまだいろんなことができるなと感じています。ランニングや、三方五湖の湖面を活用したカヤックやSUPといったアクティビティなど、いろんな入り口があると三方五湖の多彩な楽しみ方ができると思います。
若狭アウトドアチャンネルという、アウトドア事業部をうちの団体のなかで立ち上げたので、これからもっと強化していきたいですね。
ここからランニングで15キロくらい先にあるレインボーラインまで走ろう!などのサイクリングツアーを実施したり、三方五湖をめぐるカヤックツアーを運営したりもしています。
また、来年の春から教育旅行として修学旅行生が訪れるので、地元の方たちや漁師さんたちと話し合いながら体験ツアーの開発中です。
地域の人たちと一緒に仕事を作っていきたいなあというスタンスは以前から変わっていないので、これからもより多くの方に三方五湖の魅力を知っていただけるようなチャネルを作っていきたいと思っています。
ーーー阪野さん、お忙しい中たくさんのお話を誠にありがとうございました。
https://switchswitch.org
cafe縞
福井県三方上中郡若狭町鳥浜122-12-1縄文ロマンパーク内
⭐︎訪問を終えて⭐︎
三方五湖、そして400年ものあいだ継承されてきた伝統漁法が今なお守られている三方湖畔にたたずむと、陸地、湖から海、そして人と自然は循環していて自分もその根っこでつながる一部だということを実感できます。
ここは福井県なんだけれど、また嶺北とは違った独特の魅力があります。この「遥」(はるか)感は、土地の持つDNAというか、鳥浜貝塚の縄文時代の出土品にしじみや鮒をとっていた形跡があったように、太古の昔から脈々と繰り返されてきた安らげるいとなみを土地が記憶していることから生まれているものかもしれません。
私はここの風景がすごく好きになりました。
可能なら、冬の伝統漁法を体験してみたり、鮒や鯉のお料理もいただいてみたいと思っています。
このような静かな美しい風景を堪能できるのも、自然に負荷をかけずに共存してきた先人の知恵や、今なお環境を支えてくださっている地域の方々の賜物だと思いました。
ありがとうございます。
(一社)Switch Switchさんが、地域の繋ぎ目として、クリエイター的センスや、お洒落で美味しいお料理などをはじめとして、地域の魅力をより光らせるように素敵にコーディネートしてくださっていることを感じました。
これからのアクティビティや取り組みも楽しみです。
貴重なお時間のなか、ありがとうございました。
2022.10月訪問
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