もっと良い音!SPレコードのカートリッジ再生② フォノEQで3ランクアップ!
EQカーブとは?
ざっくり説明すると、EQカーブとは録音時に低音をカットし高音を持ち上げて再生時にその逆のEQカーブを通す手法です。
ほとんどのLPレコードでは「RIAA」というEQカーブが採用されています。これは1950年代末に世界的に統一された規格で、PHONO端子の付いている一般的なオーディオアンプにはRIAAカーブのフォノプリアンプが内蔵されています。レコードプレーヤーの出力をアンプの外部入力端子(AUX端子)に繋いで聴いてみると「シャカシャカ」した小さな音になってしまうのは、カートリッジで拾った微小な信号を増幅するための回路とRIAAカーブを適用する回路を通っていないから起こるわけです。
一方、SPレコードはかなり多種多様なEQカーブを用いて録音されています。
1925年頃まではマイクを用いないアコースティック録音でしたので基本フラットですが、マイクロフォンとプリアンプを用いた電気録音ではレーベル各社またはエンジニア単位で統一していませんので、より良い再生音を求めるなら様々なEQカーブを設定出来るフォノイコライザーが必要になって来るわけなのです。
フォノイコライザーを選ぼう!
さて、フンワリとEQカーブを理解した所で、早速フォノイコライザーを選びましょう。個人的にはここが1番楽しいポイントです!何せ専門的な機能を備えたオーディオ機器は、音楽好き・良い音好きにはたまらない魅力を持っているからです。
しかし、気になるのは予算ですね。ピンキリではありますが、やっぱりそれなりな所はあります。そこを踏まえた上で、お勧めのフォノイコライザーを幾つかご紹介いたします。
パソコンありきなら KORG Audio Gate
さて、何といっても無料ソフトであるKORG Audio Gateが入門編としてはオススメです。
DSDの編集と再生を不足なく扱えるだけではなく、SPレコード用のEQカーブまで後がけ出来るのは賞賛に値する仕様だとおもいます。DSDファイルを直接エディットしたり、コンバートをできるだけでも唯一無二と言って良いほどの充実ぶり。また、CD-R制作ソフトとしても、専門メーカーよりも断然高機能です。サードパーティで発売して欲しいですね。
KORGの対応製品を所有していれば無料なので、AudioGate目当てで製品を買う動機に十分なりうるものです。
さて実際の使用例としては、EQカーブを掛けずに録音したファイルをAudio Gateのソングリストに読み込ませて、そこでソフトウェア上でEQカーブを設定するという手順となります。
敢えて難を言うと、制限無しで使用するにはKORGのDSD商品と接続してアクティベートする必要がある事と、パソコンのCPUやOSのバージョンとの相性が悪い場合があります。
実際に、私のMacbook M2では、一度クラッシュしてから全ての手を尽くして復旧を試みましたが未だに立ち上がりません。仕方なくCore i5の古いiMacでOSのバージョンを落として使用しています。この現象は殆ど他では聞きませんので私の環境に問題があります。
残念ながら、KORGはDSDオーディオ製品開発に積極的ではないように見えるので今後のバージョンアップに不安が残ります。
侮れない。超優秀なデジタルフォノEQ、M2TECH Joplin mk3
アナログ派には敬遠されがちですが、かなりの優れものなのがM2TECHのJoplin mk3です。多数の78rpm用のカーブとマニアックなLP用カーブ、そしてオープンリール用のカーブが3種までプリセットされているほか、ローパス、ハイパス、そしてカートリッジのインピーダンスまで細かく調整可能です。
またAD/DAもハイクオリティなので、デジタル変換して録再するにはこれ一択と言っても良い逸品です。敢えて難を挙げると、1項目設定後に毎回メニューに戻ってしまうので、設定を切り替えて使う方には非常に面倒です。ですが、その面倒臭さを差し引いても魅力のある製品です。もう一つ決定的に欠けているのは縦振動モードとモノラルミックスでしょう。マニアックな製品なのですから、これを実装しないのは意味不明です。
高級オーディオ志向のSoulnote E-2
まず上流で高音質で拾っておきたい、というニーズに応えてくれるのは、Soulnote E-2です。この中では1番高額(大体の市場価格は60万円前後)なので豪華なパーツをふんだんに使用しており、超重量系で一人で持ち上げるのが厳しいほどです。三つのプリセットつまみの組み合わせによって144種類のEQカーブが選択できます。しかし実用性のあるEQカーブはそれほど多くないので、これ単体で完結させるのは難しいと思います。
便利なポイントは、MC/MM対応、三系統のフォノ入力、モノラルMIX、位相反転、カートリッジの消磁モードです。
これらの機能をフォノケーブルからの上流で利用できるメリットは多大です。さて、問題は光カートリッジ対応の部分。もちろん多種多様なカートリッジに対応してくれるのはありがたいのですが、その前にSPレコード再生には欠かせない機能を優先させて欲しかったというのが本音です。
しかし、オーディオは自己満足の世界。このどっしりとした豪華な筐体のフォノEQは、重い=音が良い、というオーディオ神話にフィットします。
一見、他のモデルと比べて60万円は高価な気がしますが、EMTなどの78フォノEQは550万円というクレイジーな価格から比べると大分良心的に思います。そして価格差ほどの音質の差があるとは到底思えませんが、どうなんでしょうか。
SPレコード専門家が設計したKAB Souvenir MK12
今まで紹介した4アイテムに決定的に足りていなかった重要な機能を実装しているのが、このアメリカのガレージメーカーによるSouvenir EQS MK12です。
10年ほど前に日本の代理店が電源を100V仕様に変更したモデルを取り扱っていましたが今は中古でしか手に入らないかもしれません。作りも無骨で、筐体も軽く1Uラック仕様ですが、実用面では最強なのです。
またプリセット方式で物理的なボタン切り替えで、色々なEQカーブを切り替えながら聴き比べるには最適です。輸入モデルの場合は電源の表記を注意深く読んで、必要に応じたステップアップトランスをかます必要がありますが、日本仕様モデルはその心配がいらないのはメリットです。
SPレコード再生に重要な機能(Souvenir EQS MK12に実装)
縦振動 (Vertical) / 横振動 (Lateral) の切り替え
MONO MIX
左右チャンネルのブレンド機能
アウトプットゲインのコントロール
The Edison Diamond Disc Record や Pathé Spphire Disc などの
縦振動盤はカートリッジの配線を変えて対応するパターンがほとんどですが、フォノEQの縦振動モードでかけた場合の方が音が良いですし、わざわざカートリッジを付け替えたりする必要もないのでこれは全てのSPレコード対応フォノEQにつけるべき機能です。
また、Joplin mk3のようにMONO MIXがついていない場合はモノラルカートリッジ使用を前提にしているのですが、専門家がよく採用するStantonのようにステレオカートリッジを使えないのは残念すぎます。
意外と知られていないのが左右チャンネルのブレンド機能です。これはモノミックスで左右チャンネルの比率を自由に変えられるという事です。このバランスを変えることによって、コンディションの良い方のGroove (溝)を選択する事ができます。これが実は劇的に再生音が変わりますので、知られていませんが実に有用な機能なのです。
意外と便利なのがアウトプットゲイン機能です。これはフォノEQから録音機器やアンプに対して送る全体の音量を調節できます。EQカーブの種類によって音量差があるので、これを可変できるのはかなり便利なのです。
さて、機能的には最強のSouvenir MK12ですが、E-2 や Joplin mk3 のきめ細やかな艶のある音質と比べるやや不満が残ります。価格差を考えると仕方がないのですが、高価になっても高品質のパーツを各所で使用して欲しいと思ってしまいます。
Aurorasound EQ-100
これは日本のメーカーが近年発売した最も実用性のあるモデルです。筐体は小さめで取り扱いやすく、可変式でのカーブの設定も操作性がとても良いです。特色としてMC/MMに加えてVR1, VR2というバリレラ用モードを備えているところです。バリレラカートリッジはヴィンテージ派に大人気なので、これはマニア心をくすぐる素晴らしい設計。
大きく使いやすいMuteスイッチも好印象です。欲を言えば、筐体が大きくなっても良いので、先に挙げた機能を実装してくれたら最高ですね。
中でも縦振動モードは必須だと思うんですけどね。
SPレコードフォノEQの秘かな愉しみ
さて、SPレコード再生用EQカーブに対応した機材はまだまだ沢山ありますが、それぞれ一長一短なので用途によって切り替えたり組み合わせたりして使用しています。これがワンストップで済む製品が現実的な価格で出てきて欲しい、というのが切なる願いです。
78rpmで高速回転するSPレコードの持つポテンシャルを引き出すのは、オーディオ好きにとどまらず、音楽好きにも快感となる事請け合いです。
同じSPレコードでも、再生セッティングで違う演奏家ではないのか?というほど、印象が変わってしまう事実を知ると、レコードを原盤で持つ意味合いも変わってくると思います。
皆さん、もっともっともっと気軽に良い音でレコードを聴きましょう!