本日の一曲 vol.420 ショパン 前奏曲第15番 雨だれ (24 Préludes Op.28 No.15 "Raindrop", 1839)
ピアニストの藤田真央(1998年11月28日生)さんの新譜が「72 Preludes」ということで、何の前奏曲かと思いきや、ショパン(Frédéric Chopin, 1810年3月1日生~1849年10月17日没)さんの作品28の前奏曲24曲、スクリャービン(Alexander Scriabin, 1872年1月6日生~1915年4月27日没)さんの作品11の前奏曲24曲、そして、矢代秋雄(1929年9月10日生~1976年4月9日没)さんの24の前奏曲の合計72曲の前奏曲集でした。このアルバムがアップル・ミュージックのクラシックトップ100のナンバーワンになっています🎉(本日現在)。
アルバムのプレイリストです。
藤田真央さんについては、以前、ラヴェルさんの「ラ・ヴァルス」の演奏でご紹介したことがありましたので、こちらの記事もご覧ください。
本日は、このショパンさんの24の前奏曲の第15曲「雨だれ」を紹介したいと思います。もともと前奏曲は、なにか本体の曲があって、その前に演奏される曲というのが本来の意味だと思いますが、ショパンさんは、そうした前奏曲を単に集めたというのではなく、一連の詩集のような構成を考えたのだろうと思います。曲順からして、曲の調性が平行短調を挟んで5度ずつ上がっていくという曲順になっていますので、単なる前奏曲の寄せ集めではありません。
フランスのピアニストであるアルフレッド・コルトー(Alfred Cortot, 1877年9月26日生~1962年6月15日没)さんは、独自の解釈で、以下のとおり、それぞれの前奏曲に題名をつけています(EMI Classicsの日本盤による)。
第1番 ハ長調 愛人への熱い恋慕
第2番 イ短調 哀しい瞑想:彼方に寂しい海が…
第3番 ト長調 小川のうた
第4番 ホ短調 墓の傍らで
第5番 ニ長調 心いっぱいのうた
第6番 ロ短調 郷愁
第7番 イ長調 楽しい思い出は香水のように漂う
第8番 嬰ヘ短調 降りしきる雪、吹きすさぶ風、荒れ狂う嵐、しかしわが重い心はそれを凌ぐ風
第9番 ホ長調 予言の声
第10番 嬰ハ短調 降る花火
第11番 ロ長調 乙女の願い
第12番 嬰ト短調 夜の騎行
第13番 嬰ヘ長調 星空の異郷で遠い愛人を想う
第14番 変ホ短調 嵐の海
第15番 変ニ長調 死はすぐそこの影の中
第16番 変ロ短調 混沌の奔流
第17番 変イ長調 あなたを愛しますと彼女がいう
第18番 ヘ短調 呪い
第19番 変ホ長調 翼があったら君の許へとびたい
第20番 ハ短調 葬送
第21番 変ロ長調 愛を契った場所に寂しく戻る
第22番 ト短調 反乱
第23番 ヘ長調 戯れる水の精
第24番 ニ短調 血、熱情そして死
第15番の「雨だれ」は、メロディーの裏に同じ音でぼつぼつと規則正しく連打されているのが雨の音のようなので、もともとそのような副題がついているのですが、コルトーさんによると「死はすぐそこの影の中」という副題になっています。
この「雨だれ」は、1990年公開の黒澤明(1910年3月23日生~1998年9月6日没)監督の映画「夢」の中でとても印象的に使われています。この「夢」は黒澤監督の見た夢が題材となっているようですが、夏目漱石(1867年2月9日生~1916年12月9日没)さんの作品「夢十夜」にヒントを得たものだと言われています。
「雨だれ」が使われるのは、第5話「鴉(からす)」で、「私」を演じる寺尾聰(1947年5月18日生)さんがフィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh, 1853年3月30日生~1890年7月29日没)さんの絵画の中をさまよい歩くという幻想的な場面です。
もともと黒澤監督は、ウラディミール・アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy, 1937年7月6日生)さんの40歳の頃の演奏(1978)を使いたかったらしいのですが、許諾をもらえませんでした。
映画「夢」の音楽は池辺晋一郎(1943年9月15日生)さんが担当されていたのですが、アシュケナージさんから許諾がもらえないということになり、池辺さんが黒澤監督に学生をつかったらどうかと提案したところ、黒澤監督に却下されてしまい、池辺さんは、知人のピアニストの遠藤郁子(1944年11月26日生)さんに頼みこんで、遠藤さんがこれを引き受けて演奏したという経緯だそうです(日本語版Wikipedia)。
遠藤さんの「雨だれ」の音源は見当たりませんでしたので、ショパンの演奏として、夜想曲第2番(Op.9-2)です。
(by R)