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【前編】結婚したら、周囲の態度が変わった。性別の違和感を無視できなくなった(2022年wezzy掲載)

今回の記事は、2024年4月でサービス終了した株式会社サイゾーが運営するWEBマガジン「Wezzy」にて、2022年に掲載していたものです。

前回のエピソードはこちら↓

「自分を女性と思えない」と悩んでいた私だが、20代のころは女性として生きることにかなり執着していた。具体的に言えば、結婚したくてしたくてたまらなかったのだ。実際入籍したのは30歳だが、25歳からつき合っていた夫には、交際3カ月で「早く結婚したい」と迫っていた。「そんなに旦那さんのことが好きだったのね~」と思われそうだが(好きだけれども)、別に今の夫じゃなくても、誰でもよかった。とにかく、早く結婚しなくてはならないと思っていた。

それが女性に生まれた者の義務だと思っていた。私が20代だったおよそ10年前も、すでに少子化は大きな社会問題だった。女性が3人以上産まなくては少子高齢化は進むばかりだ、といった論調に、私は強く同意していたのだ。まるでどこかの保守派のおじいちゃんみたいな発
想だが、当時は本気で自分を追い詰めていた。

それは、自分の「女じゃない」という思いを、わがままと捉えていたからだ。結婚して子どもを産むという“女性の責務”を果たさないかぎり、そんなわがままを主張する権利はないと思っていたのだ。

だが、そんな権利は与えてもらえない。むしろ女性であることから一層逃れられなくなると、私は結婚して初めて気づいた。

最初の違和感は、周りの反応だった。

私の職種は映像制作という専門性が高いもので、職場では男性と伍して働くことを求められた。女性であっても結婚を機に周りの態度や本人が変わるということもあまりないように見えた(そもそもブラックな職場のせいで離職率が高く、既婚女性自体少ないのだが)。しかしいざ結婚してみると、周りは思った以上に私を女性扱いしはじめた。

仕事関係の人は「お前も女だったんだな」となんだか残念そうだった。女友だちは「旦那さんの夕食の支度もあるし、もう飲みに誘えないね」と距離を置いたり、私を名字で呼んでいた人が突然下の名前に切り替えたり。まるで「お前は女だ」と蔑まれているようで、屈辱でならなかった。実際にはそれは女性扱いでなく、配慮ややさしさとも言えるのだろう。戸惑いながらも、笑顔で受け流してきた。だが次第に、小さな我慢の重みに耐えきれなくなった。

そんななか、私は自分が病的なまでに追い詰められていることを自覚した。結婚直後の妊娠、流産がきっかけだった。

先送りしつづけて、ここまで来た

結婚後、妊娠が発覚した。しかし妊娠4カ月の段階で胎児の発育が止まり、流産となった。
それがわかったとき、私のなかに、ふたつの相反する感情が湧き上がった。子どもの命を失う悲しみや罪悪感と、「子どもを授かれない私はやっぱり女性じゃないんだ!」という喜びだ。

そんな自分にひどく困惑した。考えるまでもなく「流産したから女性じゃない」というロジックは、まったく成り立たない。

子どもを産み育てることは、この社会で生きていくために必要な義務であり、人の喜びのはずと、当時は真剣に思っていた。なのに「女性じゃない」などというよくわからない屁理屈をこねる自分、そうまでして性別に固執する自分が、実に不謹慎でみっともなく思えた。

私はそれ以前から、自分のなかの「女性じゃない」という思いに気がついていたのだ。それは、抑えるべき見苦しい衝動だと思っていた。だからずっと制御してきたのに。

自分は女性じゃないという気持ちは、幼稚園のころからあった。当時から「子」がつく名前で呼ばれるのが嫌で仕方がなかった。男言葉やオレを使うなど、「男の子アピール」もした。

しかし、親や先生の負担にならないように気を遣ってもいた。赤いランドセルへの不満もセーラー服への拒絶感も、一切口にしなかった。私が育ったのは、親が離婚し、兄たちが非行に走り、常に問題ばかり起こる家庭だった。私は一番手のかからない子として扱われていた。子どもながら、自分の感情よりも家のなかで波風を立てないことのほうが、圧倒的に重要だったのを覚えている。1日1日を平和にやり過ごすことが第一。自分が男だという「わがまま」を通すのは、大人になって自分でお金を稼げるようになってからで十分。そう問題を先送りしていた。

結局、大人になっても、先送りしか選べなかった。

だが、女性であることばかりを突きつけられる結婚や妊娠という場面では、先送りで自分を抑えること自体が、大きなストレスになっていた。気がつけば、昼間の住宅街を歩くだけでも、知らない人から「女性」だと責められている気がして、日中の外出も怖くなった。

この感覚は一体何なのか? この違和感に折り合いをつけないことには前に進めないことを、私はようやく理解しはじめた。

それでもこの時点で、自分の生きづらさの正体にまだ気づけずにいた。「自己肯定感が低い」「自信がない」。だから、自分を女性と思えないんだと、思ってきた。だが、夫の「あなたの意思は?」という問いかけで、「もっと素直に『女性と思えない』こと自体に目を向けていいのでは?」という発想がようやく芽生えたのだ。

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