金曜日のショートショート06


お題『きらいなもの』

タイトル『ラブマシーン1号』



2XXX年、ストレス社会を少しでも平和に過ごそうとあらゆる開発が行われ、家庭でも使用できるような機械も数多く生まれていた。

そして大昔から親を悩ませる、子供の好き嫌いが激しくてメニューに困る、という悩みを解決する画期的な商品が発売され、値段は高いが評判も良いので購入することにした。

『きらいなものをすきにする』、なんて最高の商品だろうか。

これで、嫌いだという野菜をめちゃくちゃ小さく切り刻んで隠す手間も、僕、お魚好きじゃ無いーと言うのであの手この手でアレンジした料理の手間からも解放される。


「これ、昔の電子レンジってやつ?」

「違うわ、『ラブマシーン1号よ』」

小学生の息子がキッチンに置いた長方形の箱をのぞき見るので商品名を教えた。
とりあえずこの商品名を考えてOKを出したこのメーカーの勇気をたたえたい。

「何に使うの?」

「そうねぇ、まずはあなたの嫌いなものを教えて」

私の問いに息子はいっちょ前に腕を組んで悩んでいる。
ピーマンがくるのか、納豆が来るのか、いや魚か。
これに入れてボタンを押せば、物の形はかわらないのに、息子の好きなものに変化するのだ、素晴らしい。

「じゃぁ担任の先生」

「ものになさい、というか担任の先生嫌いだったの?」

「大嫌い。好きになれないからどうにかして」

「無理よ、この中には入らないわ」

「押し込めば?」

「多分担任の先生の形にはなってないでしょうね」

「えー」

そんなに不満げに言われても困る。
人間は入れないで下さい、と表の注意書きに書いてあるのに。

「じゃあお母さん」

息子の言ったその無邪気な言葉に固まる。

「だって、ピーマン残さず食べろとか、勉強しようと思ってたのに勉強しろって言うし、ゲームの時間だって他の友達より短いし」

私を前にして延々と不満を息子は述べ始めた。

「・・・・・・そう」

私は低く呟くと、未だ私への不満を言っている息子を抱えた。
そしてラブマシーン1号の前に行き、ドアを開ける。
息子サイズなら押し込めばいけるかもしれない。

私のただならぬ状況に驚いた息子が暴れ出した。

「うそうそ!ごめんなさい!ごめんなさい!!」

「ご飯を文句言わず食べてくれる子が、お母さん良かったなぁ」

「食べる!ピーマンもお魚も食べる!勉強もするから!!」


かくして、我が家でラブマシーン1号が稼働することは無かった。
商品のレビュー欄を見ると、私と同じ事をして効果を得た母親達から感謝の言葉が綴られていて、私も買って良かったと☆5をつけておいた。


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