せたがやインクルーシブ教育ガイドラインの作成について
国連勧告に沿ったガイドラインをつくろう
2022年9月、私は区議会定例会の一般質問で保坂展人世田谷区長に対して、国連障害者権利委員会の日本政府への勧告をどのように受け止めるのか、を聞いた。保坂区長は、「国連勧告と『私たちのことを私たち抜きで決めないで』という大変有名になった合言葉の意味を十分踏まえて、インクルーシブ教育や地域共生社会実現にしっかりと取り組む」と明言した。その言葉を体現するように、2023年1月制定の「世田谷区障害理解の促進と地域共生社会の実現をめざす条例」には、インクルーシブ教育の実現が位置付けられた。このことから、世田谷区におけるインクルーシブ教育の実現は一歩も二歩も他自治体をリードしていくのではないか、と期待が広がった。
だからこそ、現在策定中のインクルーシブ教育ガイドラインは、国連勧告を捉えたものになるのか、と注目が集まっているし、そうしなくてはならない。
ガイドラインがめざす教育とは何か
2023年6月にインクルーシブ教育ガイドライン作成委員会がスタートした(以下、委員会)。委員会は、これまでは特別支援教育に携わるメンバーばかり。
委員会の傍聴が可能になったのは第3回目からなので、そこからの議論しかわからないが、出される意見は特別支援教育に偏ってしまいがちだった。
傍聴席からは落胆のため息がもれることが多く、このままの状態でガイドラインを作成することに不安を抱いた。
そこで、2023年第4回定例会の一般質問で、その状況を指摘し委員会の再構成を求めた。教育委員会事務局は前向きな答弁を行い、2024年5月から池田賢市さん(中央大学教授)が加わることになった。この時点からようやく「インクルーシブ教育」に対する話が出来るようになったと感じたが、議論が深まりガイドラインが真のインクルーシブ教育の視点で作成されているのかが厳しく問われた11/29の委員会を最後に議論は打ち切られ、あとは事務局によるガイドラインの最終案づくりに引きつがれることになった。
4.27通知をどう解釈するのか
国が示す「インクルーシブ教育システム」は、普通学級と特別支援学級、特別支援学校と障害のあるなしによって子どもが学ぶ場を分ける教育制度だ。国連から分離教育であるこの制度を変えるよう勧告を受けている。区が作成するガイドラインは、国連障害者権利委員会などが示すインクルーシブ教育をめざす内容で作られなくては意味がない。しかし、注意深く読み込むと、分けない教育ではなく、現状と同様インクルーシブ教育システムの視点に立ち特別支援教育を温存する部分が散見されることに気がつく。
その最たるものが、「4.27通知」の記載だ。この通知は、特別支援学級に在籍する子どもは通常学級で学習する時間を半分以下にせよ、という内容で国連勧告の対象でもある。インクルーシブ教育先進地域ではこの通知の取り扱いに悩んでいるところもある。しかし、世田谷区教育委員会事務局は、この通知をガイドラインの資料編に記載しようとしている。
国連勧告に沿った区政運営をめざしているならば記載するべきではない、と2024年の第4回定例会で指摘したが、区の答弁は、通知には様々な解釈があるとし、世の中の流れや教育の現状を教員に正しく認識してもらうとともに「通知の趣旨にもある通り、交流及び共同学習を週の授業時間の半分に近づける取り組みを行うことを示すために掲載が必要」と珍解釈、珍回答を行なった。何度話し合いを持ってもすれ違っている。
最終案がどのように取り扱いをするのか、合格発表を待つ思いだ。
望まれるのは、今の学校を変えること
ガイドラインの役割は、「世田谷の教育は、すべての子どもは地域の学校で共に学び共に育つことを前提とし、その実現のために学校制度を整える」という方針を示すことだ。そのすごくシンプルなことがなぜ出来ないのか。もどかしくて仕方がない。
12月8日に、障害児を普通学校へ・全国連絡会の学習会に参加した。中川明弁護士のお話で印象的だったのは、「インクルーシブ教育に対する考えが違う団体もあるけれども、見ているところは同じ。対立項にならないことが大切」と繰り返したことだった。
委員会のヒアリングで、インクルーシブ教育を進めることに懸念を表明する障害者団体も出席していたが、注意深く話を聞いていれば、今のままの学校環境では障害のある子どもが普通学級で学ぶことは不安だ、と指摘している。それには異論はない。インクルーシブ教育を進めるために学校現場が変わることを求める考えは一緒なのだ。
このガイドラインの影響は大きい。全国的に影響を及ぼすものであることを、意識しての粘り強くより良いものを求め続けていく。
*せたがやインクルーシブ教育ガイドラインの最終案は、2月4日(火)10時開催の文教常任委員会で報告予定。どなたでも傍聴可能。インラーネットによる同時中継も行なっている(世田谷区議会HP)。