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『アオのハコ』4話感想/千夏先輩の不安と、試合に集中する得点係

アニメ『アオのハコ』4話視聴。千夏先輩と大喜がちょっとギクシャクした回。でもそれによって、千夏先輩には大喜が必要なのだと感じられる回だった。それとは別に、OPの「試合に集中する得点係の絵」に、私はなぜかずっと惹かれる。いいシーンだなぁ、と思う。そして「今回のギクシャクの原因」と「得点係に惹かれる理由」には、つながりがある気がする。思ったことをメモしておく。

#ネタばれあり

●ギクシャクは誤解に見えるけど誤解じゃない
バド地区予選前夜、落ち着かない大喜を千夏先輩は励ます。安心させようとして言葉をかける。「大喜くんには、来年も再来年もあるんだし。」
この言葉で大喜は不機嫌になる。誤解が生まれて、二人はすれ違ってしまったように見える。でもそれは誤解ではなく、本当はすれ違ってさえいない。そしてそれがこの物語のカギになる構造だと思う。どういうことか、思ったことを書いておく。

●不機嫌になった大喜と千夏先輩の不安
大喜は不機嫌になった理由を「学年差を感じさせられて、ちょっと落ち込んだだけ」と言っている。一方の千夏は「あと一年しかないという自分の不安」を吐き出した言葉で、「今年は負けたっていいじゃん」と聞こえる言葉だったと反省している。これは一見、大喜の単純な反応を、千夏が深読みしただけのように見える。でもそれは「同じもの」を別の角度から見えているのだと私は思う。同じものとは「不安」だ。
大喜はIHを目指す千夏の励みになりたいと思っている。彼女と重なる部分が自分にはある。そう思って頑張っている面がある。なのに、学年差という「自分とは重ならない部分」を千夏先輩は見ていた。あなたはまだそんなに焦らなくてよい。それは「私の不安をあなたは共有できないのではないか」という問いかけだ。そしてそれは千夏先輩があとから反省しているものとまったく同じものだ。彼女は大きな不安と戦っている。家族と離れて部活を続ける決断をした。それは彼女のわがままだ。それに見合うだけの成果を出す必要があるし、誰よりも彼女自身がそれを強く望んでいる。
大喜は千夏先輩の言葉から、その「大きな不安」をちゃんと感じ取った。それを言葉として理解できたわけではない。でも「いつも不機嫌にならない大喜が不機嫌になる」ということで、「不安」が漏れ出していることを千夏先輩に気づかせた。大喜はそこまで気に病んでいたわけじゃない。なんでそんなことを言うんだ、という気持ちがあったわけでもない。千夏先輩の不安に、自分は手出しできないのが悔しい。それだけだろう。だから千夏先輩の前で「シングルでも勝つから」と宣言する。そのことで、彼女と同じように「追い込まれた立場」に立とうとする。彼女の「不安」とは比べられないほと小さな不安なのかもしれない。それでも自分も「不安」を乗り越えたい。そういう姿を見せたい。そう感じての行動なのだろう。

●自分への同情を叱ってくれる後輩
千夏先輩の言葉は、私も含めたおじさんが若者に対して言ってしまいがちなものだ。
あなたはまだ若く可能性がある。それだけで私に比べたら幸せだ。
そういう趣旨の励まし方をしてしまう。そんなことを言われてもなあ。それが若者の感覚だろう。年寄から見たら可能性は「希望」だろう。けれど若者からみた可能性は、単なる「重荷」の場合だってある。そもそもその言葉は「若者を励ましている体」だけど、本当は「可能性の減ってしまった自分」を憐れんでいる言葉だ。『ノルウェイの森』の永沢先の言葉を思い出す。「自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のやることだ。」
千夏先輩の言葉を「おじさんの言葉の下劣さ」に比べてしまっては失礼だ。私はレベルの違うことを無理やり比べている。それでも、千夏先輩の言葉には「よからぬもの」があったのは確かだ。それは普通の人なら見逃すものだ。でも大喜は千夏先輩の根っこの部分を直観的にわかっている。だからその言葉を受け入れられなかったのだろう。そして「受け入れられなかったこと」によって物語は展開してゆく。

●試合に集中する得点係のエモさ
バスケの得点係が試合の行方を真剣に見守る姿は、なんだかグッとくる。「我を忘れて目の前のものに集中している姿」は人の心を強く打つのだ。それは「そういう瞬間」が貴重なものだから、なのだろう。私たちはすぐに「自分への憐れみ」のようなことを考えてしまう。目の前のものに集中できない。「部活」という目の前のものに真剣に向き合えば向き合うほど、そこに「自分への憐れみ」が立ち上がってきてしまう。それは人間の性だ。避けようがない。そのときそれを振り払うことができるのは「目の前に集中する他人の姿」なのだろう。我を忘れて集中する姿を見て、人は我を忘れることができる。バスケの試合に集中する得点係がグッとくるのは、そういう「他人の姿によって、余計なものを振り払われた人たち」を、よく感じられる瞬間だからなのだろう。


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