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『負けヒロインが多すぎる』11話#2/「約束としての誓い」と「祈りとしての誓い」

『負けヒロインが多すぎる』11話が凄かった。いろいろ考えさせられた。もう感想記事を書いたけのだど、その後、温水のモノローグについて、そしてずっと感じていた温水の変なバランス感覚について色々考えた。せっかく考えたので、それもメモしておく。

#ネタバレあり

●誓いとモノローグの矛盾
11話で小鞠と温水は、気持ちがすれ違って関係が壊れそうになる。小鞠はかたくなに一人で部長の仕事を全部やろうとして、助けようとする温水の行動は裏目に出る。温水はずっと小鞠の気持ちが分からない。でも最後に小鞠の本心を知る。どうせ居なくなるくせに、これ以上優しくしないで。それを知った温水はこう答える。俺、ずっと一緒にいるから。このとき温水のモノローグが入る。

もちろん、皆いつかは疎遠になるだろう。でもそれはどんな人間関係でも変わらない。俺たちは「かりそめの繋がり」を繰り返し掴んでは手放して生きていく。それは寂しいけれど、悲しいばかりじゃない。そんな気がする。

温水モノローグ

小鞠に「ずっと一緒にいる」と伝えたときに、温水の頭にあったのは「私たちが掴めるのはすべて、かりそめの繋がりだ」ということだ。それは言っていることと矛盾しているように見える。「ずっと一緒にいる」は、気軽な気持ちで言った、という面はあるだろう。でもずっと一緒にいてあげたいと本気で思ったはずだ。だから「ずっと一緒と誓った気持ち」と「かりそめの繋がりという自覚」は相矛盾している。でもそのどちらも本心なのだと思う。それが共存できるところが温水の「特殊なバランス感覚」なのだと思う。

●温水の特殊なバランス感覚
一般的な話として、どんなに強く「ずっと一緒でいよう」と誓いあっても、いつかは疎遠になるものだ。それでも、私たちはそんなことは忘れて誓い合う。私たちはそういうふうにできている。私たちは「真実から目を背ける」しか無さそうだ。でも温水は真実から目を背けているわけじゃない。かりそめをちゃんと自覚している。それでも誓うことが出来る。なぜそんなことが出来るのだろうか。
守れなさそうなことを約束するのだとしたら、それは不誠実だ。でも、ずっと一緒にいると誓った温水に不誠実さは感じられない。その理由を言葉で説明するには、この「誓い」は約束ではなくて「祈り」だ、というロジックが私には腑に落ちる。祈りとは結果にコミットするものではない。だから不誠実に感じられない、という単純な話だ。
ずっと一緒にいることを心の底から祈るとき、それも「誓い」と呼べるだろう。約束としての誓いではなく、祈りとしての誓い。そして私たちは「祈りとしての誓い」によって繋がることが出来る。そういうふうにできている。その繋がりは「かりそめ(一時的なもの)」だ。でも偽物ではない。それが悲しいばかりじゃない、と温水が感じるのは、偽物じゃない繋がりを感じる喜びが含まれているから、なのだろう。温水とは違って普通の人は、この「誓い」を「約束としての誓い」と自然に捉えてしまう。その感覚では、すべてが偽物に見えてくる。すべてがむなしく感じられる。「真実から目を背けること」が必要になる。
温水の特殊なバランス感覚とは、要するにこういうことだ。「ずっと一緒にいる」を「約束」ではなく「祈り」として自然に捉えている。それによって「かりそめであること」をちゃんと自覚したまま、心の底から「ずっと一緒」を誓うことができる。それはきっと、「本音と建て前」や「期待と現実」などの「相矛盾するもの」にぶつかっても、自分に嘘をつかずに両立できる、ということだろう。もちろん温水は、そういうことを「理屈じゃなくて感覚」でやっているのだろうけど。

●特殊なバランス感覚を通して見えるもの
そして「かりそめの繋がり」は、この作品を貫くテーマになっているように感じる。温水は負けヒロイン達と「付き合う」ことはなく「友人関係」にとどまっている。そんなの、もう付き合ってるのと一緒じゃん、と私たちは思う。でも付き合っているわけではない。いったい付き合ってるってなんだ?と感じる。この「付き合ってるとは何?」はよくあるテーマだ。けどこの作品は従来とは違う新鮮さを感じる。それは「かりそめの繋がり」という温水の自覚が背景にあるからだろう。
温水は「かりそめの繋がり」に自覚的だ。だから「友人関係」を築くのが、普通の人より難しい。でも温水には「特殊なバランス感覚」を使って友人関係を作る。だから温水を通して見る友人関係の作り方には、私たちが知らない新鮮さがある。そして温水を通してみる「付き合ってるとは何?」に対しても、新鮮に感じられる。だからこそ負けヒロイン達はとても魅力的に見える。こんな子たちと学生時代を過ごしたかったと思わせてくれる。それは温水の特殊なバランス感覚のおかげ、なのだろうと思う。

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