【毎週ショートショートnote】それでも地球は曲がってる

　女はペットのカメを可愛がっていた。
　しかし女はズボラであった。
　いつしかカメの甲羅にはカビが生え、長年の放置ゆえ、それは知的生命体といえる域にまで進化していた。

＊

　甲羅の上では、宗教裁判の真っ最中だ。
「ガリ・レオン、そなたはこのチキュウが曲がっていると？」
「はい、その通りです。チキュウは茶碗をひっくり返したような形であり」
「黙れ、黙れ！」
　神官たちは口々に罵った。
「神がそのような不完全なものを作りたもうはずがない。世界は平面に決まっておる。そなたの説を取り消せ。さもないと縛り首にするぞ」
「ムムム、ムムム」

＊

「あれえ？　カメスケ甲羅ヨゴレてない？　今日は休みだし、洗ったげるよ」
　女は大量の水と歯ブラシでカメの甲羅をゴシゴシこすった。

＊

　未曾有の大水害になすすべなく流されながら、ガリ・レオンは力の限りこう叫んだ。

「それでもチキュウは曲がってる！！」

（377文字）　

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