詩 | 春の風
きみの長いスカートがなびいたその瞬間を
ぼくは鮮明に覚えている。
あれは、冬がすぎて暖かい春の日差しを
みんなが感じ始めたときだった。
きみの髪は長くて春の風がそれをより一層
美しくした。
春の香りだと思ったその香りは、
きみから放たれた香りだった。
顔にかかった髪をかきわけると
きみの美しい顔がぼくを見た。
きみとぼくとの距離は1メートル
くらいだったろうか。
きみの瞳は大きくて、ビー玉のように
光っていた。
ぼくは吸い込まれそうになって
そのとき時を忘れたんだ。
時間にすれば、きっと一瞬の出来事だろう。
でもぼくの脳裏にはそれが永遠に消えない。
春になると思い出すんだ。
きみの髪が風になびいて
そのスカートが宙に舞った瞬間。
きみがぼくをじっと見て、
遠慮がちに笑ったあの瞬間を。