むすめかぶき
【序】
人間のすることは、すべて人間の精神を通してつくられる。
だから、世代を超えていろいろな精神をくぐっている間に
変質しながらも人々の心に届きます。
むすめかぶきは、歌舞伎に憧がれた女性たちの集まりです。
憧れは若い娘の持つ魅惑的な時代には、創造に向かう第一
のはたらきといえるのです。
『女子力』の著者、馬場伸彦氏は、結成当初の私達を見て
このように表現している。
むすめたちは、フォルムのなかに魂を入れようと
もてあます表現の欲求を、禁欲的なまでに重い衣裳
に押し込んだ。家からも、秩序からも解放され彼女
たちは、都市に心地よいノイズを刻む。かつて流浪
の芸能民だけが持っていた情緒的なエネルギーを中
心に考えてみれば、いつの時代も「むすめ」たちが
世界を牽引してきた。秩序やしつけが厳しく言われ
るのも社会が「むすめ」たちの、箱に入らぬ激情を
知っていたからだ。
「かぶく」という言葉は「むすめ」たちのためにある
(1986年/文・馬場伸彦)
流行に夢中になっても、オーソドックスなものに対して
別スイッチの入る「むすめ」という時代に、伝統を習い
真似る。世阿弥の言う、積極的な「我慢」といえる。
私事では子ども時代から脱皮に向かった19年間。
伝統芸能を伝える家に生れむすめかぶきまでの
5年間。すべて丸ごとを真似、挑戦したむすめか
ぶきの10年間。10年目以降のむすめかぶきには
團十郎先生は、歌舞伎の型や形の本質と個体の
特徴を分けることを指導、男女身体の違いを越
え確立したこころの有り方に目を向けていくよ
うになる。能の藤田流ご宗家、脇方高安流ご宗
家、シテ方梅田先生から、中世の時空間、その
脚本、技法、それは時代の欲求が根底になけれ
ば表現の上に本当のものはでない。こういった
ことに至る時間を頂いた。お能の脚本を写した
舞台、安宅、景清、隅田川、船弁慶、岩船、泰山
府君などに多大なお力添えをいただき、私達の考え
を広げていくことになった。
多くの師匠、学者、評論家の皆様、御支援下さる
方々からご指導を賜り「むすめかぶき」と
いう形をここに頂いているとも、またあづかって
いるとも言える。
思えば、むすめかぶきの活動は、次代へ向かう
エネルギーと思う。
馬場伸彦氏の一文通り
創造は「フォルムの中に入れた魂がもてあます欲求
から成った」
そこでこれまでの積極的な「我慢」
は更に「我慢」を乗り越え、とことん真似て
真似るをのり越える身体により、新たな型、形に。
烏滸がましい私達の願いです。女性の伝統芸能
が更に深くなりますよう。
【破】
歌舞伎は、理屈より先に、自己の魂に通じていく
活路のようなものを掘り起こす身体表現の伝承が
あります。その伝承の身体を、更にどのように活
用できるでしょう。または、活路をいったん忘れ
活路を越えていく姿になる、ということもあるの
です。
1996年、12世市川團十郎はこのように私達に
ついて話してくださった。
「『むすめ歌舞伎』は、芸のスタイルを自分たち
自身で確立していかなければならない。従来の歌舞伎
の世界では様々なしがらみのためにできないようなこ
とにもどんどん挑戦して行ってほしい」
(地域文化賞受賞について/サントリー文化財団)
【急】
私達の憧れは、伝統を伝承していることではない。
この憧れは、更に深く永久にあり、そしてコイル
が巻かれるように高次になるはずです。
「私たちの心」が形になっていく時間の連続。
稽古と舞台という、形から心へ向かい、また
心から形へ向かう時間、この時間を真面目に愉し
く過ごしていくとき、驚くことが生まれていると
私たちは考えています。