負け犬入院体験記 #10 二十一日目・幸福とは。生とは。

※pixivFANBOX無料ブログ記事再掲です。

 僕はいま入院している。罪状、もとい病名はうつ病である。
 皆さんは幸福に生きたいと思ったことはあるだろうか。
 誰だってあると思う。僕だって、できればそうしたいと思っていた。
 ところで、幸福とはいったいなんなのだろうか。とある動画を見て少し考えたくなった。

 例えば、僕を見て幸福だと思うだろうか。
 たぶん相対的に見れば、僕は相当幸福な部類なのだと思う。よい家族に恵まれ、周囲の人も親切だ。おまけに才能にも恵まれているように見えるらしい。自分ではとてもそうとは思えないが。
 けれど、それは果たして幸福なのだろうか。
 以前、僕は絶望していると語ったと思う。それは果たして真実だと思う。
 この場合の真実は主観的に見た真実であって、客観的指標に基づいたものでは決してないが。
 少なくとも、現状において自分を変えない限り……もし変えたとしても幸福とはほど遠いと思う。
 将来に希望というものが一切と言って良いほどに持てない。この状態を幸福というのは間違っていると思う。
 ならば、そもそも幸福とはどんな状態を指すのだろうか。
 夢を叶えた状態とするならば、夢を叶えていないいまの状態は不幸になるし、夢を叶えた瞬間は幸福かもしれないが叶えたあとは新しい夢を作ればどんな状態であれ不幸と定義される。あまりにも現実と解離していると思う。
 ここでひとつ。ペットは幸福だろうか。
 ……奴隷と言おうとしたが奴隷を見たことがないので例にあげることができなかったというのはともかく。
 ペットは果たして幸福と言えるだろうか。
 ウィトゲンシュタイン哲学において動物は理性を持たないので過去も未来も考えられずただ永遠の現在を生きる、という言説を展開していたそうだが、あえてここはペットに理性があるものと仮定して考えるとする。
 しかし、答えは「不明」である。
 なぜなら、ペットである状態は幸福の定義とは関係ないからである。
 飼い主がいてただだらけているだけで生きていられるから幸福だと思うだろうか、それとも鎖で繋がれて家から出されることがないため不幸と考えるだろうか。それはペット本人次第なのである。
 僕はここにひとつの幸福の定義を見いだす。
 身も蓋もないが、幸福とは思い込みなのである。
 幸福だと思えればそれは幸福なのだ。不幸だと思うならばそれは不幸なのだ。
 Mr.ChildrenのCENTER OF UNIVERSEという曲から引用しよう。
「すべてはそう、捉え方次第だ」

 けれど、生きていればどうしても幸福だと思えないことはあるはずである。
 よほど頭ハッピーであっぱらぱーな人間でもなければ、どうやったって不幸な目に遭うだろう。
 未来に希望が持てないとき。絶望。そんな状態がまさに「不幸」なのではないだろうか。
 不幸はそれだけではないかと思うが、これはひとつの例である。
 ただ、僕がこれまで生きてきて経験としてひとつ思ったのは、不幸に溺れてはいけないということである。
 これは自戒でもあるのだが、不幸に溺れているとなにもできない。なぜなら溺れている自分に酔っているのだから。
 そしてふとしたときに、絶望と不幸に酔っている自分が馬鹿馬鹿しくなるのだ。けど、その不幸と絶望を解消する方法などないため、結果として死すら夢見る。
 けれど、そんなどん底に陥ってなお、僕は死ねなかった。
 死の縁に立とうとしたことがある。橋の欄干に足をかけて、川に落ちてしまおうとしたことがある。
 けど、足がガタガタ震えていた。そのときは命が惜しくなかったはずなのに。
 笑えてきた。笑えるほどに。

 僕はまだ生きたいと思っている。

 結局これが言いたかっただけだが。
 どうやったって本能は生を望むのである。死を拒むのである。
 生の死の境界、踏み越えてはいけない本能を理性が上回ることがあれば、つまりはそれが自殺の成功なのである。
 故に、僕は死ねぬのならせめて少しでも幸福たれと祈らざるを得ない。そうでもしないと、とても正気を保てぬからである。
 幸福とは思い込みだ。故に、ただ幸福だと思えば良い。
 別に僕はこれを宗教のように広める気もないし、信じるなら勝手に信じていれば良いと思っている。
 ただひとつ、どこかで聞いた言葉を勝手に引用して締め括るとする。

「幸福に生きよ!」

P.S.
 もう二十一日目である。医者に昨日の記事を見せたところ、「入院は六月中旬くらいまでの予定だよ」といわれた。あとおよそ二週間。半分は越えたんだ、という実感と共に「あと二週間もか……」とうなだれた。
 頭ハッピーであっぱらぱーな人間になりたい。そうすればすべてを幸福に感じられるだろうから。
 もっとも、そうなれないからうつ病にかかって入院までする羽目になったのだろうが。

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