スッと
疲れている時は、他人の親切がうまく受け取れない。
エレベーターを待っていたら、先に待っていた女性がちょっと脇に避けた。べつに従業員とかではない普通の人だ。
エレベーターが来てドアが開くと、ボタンを押したまま「お先にどうぞ」とその人が言う。え? いえ、どうぞどうぞ…と私は言う。だって、譲ってもらう理由もないし、私はちゃんと自分の足で立っているし、その人と比べて年寄りなわけでもない。扉は両開きで広いし、ほぼ同時に乗れそうだ。そんなにすぐに閉まらないでしょう。
それではと先に乗ったその人は、今度は「開く」を押さえていてくれている。「何階ですか」と聞いてくれたけど、行きたかった5階のランプはもう点灯していたので、同じですありがとうございますと私は言う。
で、5階に着いたらその人はまた「開く」のボタンを押さえて、どうぞと言ってくれる。いえいえ、どうぞお先にと私は言う。だって、降りたらすぐその前の窓口に並ぶのだ。順番的に先なのはその人だし、シンプルに先に降りて先に並んで手続きしていただきたい。
とにかく親切な人だった。普段からそういう気遣いのできる人なんだろう。何かそういう職場にいて習慣になっているのかもしれない。
でもね、今日の私は、なんだか全部「要らないなぁ」と思ってしまった。
スッと乗ってくれれば私もスッと乗れるし、スッと降りてくれれば私もスッと降りることができるのに、とか思ってしまった。
笑顔でお礼を言いながら、心でそんなこと思ってごめんなさいね。