74.摂食障害と性的トラウマ

いとこの自宅の前に立つのはもう十数年ぶりでした。
子どもの頃はもっと距離があるように感じていましたが、思ったよりもうちから近くて心の準備ができていませんでしたが、チャイムを押すといとこの声で応答がありました。

少しの間があって玄関からいとこが出てきました。
中へ招かれ、手土産のクッキーを渡すといとこは私が座るソファーの前のテーブルに紅茶とともに並べてくれました。

「久しぶりだね。いつだったか入院したって聞いたけど、お見舞いも行かなくてごめんね。もう体の調子はいいの?」
先に口を開いたのはいとこでした。

摂食障害のことは伏せて、もうすっかり回復したと嘘をつくといとこは頷き、そこからはお互いの家族のことなど当たり障りのない話になりました。

いとこも私も時折、会話に笑顔が混ざるようになった頃を見計らって

「よく犬の散歩してた中学生の男から飴もらった日のこと覚えてる?」

と尋ねると、いとこの顔からゆっくり笑顔が消えていきました。

「桜瑚ちゃんは覚えてるの?」

聞き返されたので正直に自分が記憶している内容を話し終えると、いとこは深々と頭を下げ、自分だけ途中で逃げ出したことを涙ながらに謝罪しました。

私は謝罪が欲しい訳ではないし、責めに来たわけでもなく私が記憶していることが真実かどうかが知りたいのだと伝えると、いとこはしゃくりあげながら顔をあげました。

「途中までは真実。でも私がいなくなってからのことはわからない」

私の下着がおろされるのをいとこは見ていました。
そしておしっこが出る汚いところなのに、男が指で割れ目を開き、顔を近づけ舌を出しそこを舐めようとしているのを見て、「あんなところを舐めるなんて、この人怖い!」そう思っていとこは逃げ出したそうです。
その後は私を置いて帰った罪悪感から、見たことを誰にも言えず、私と遊ぶこともできなくなったと再び泣き始めました。

きっと私が思い出した記憶は全て真実なのだと思いました。

高校生の頃の性暴力以前に自分が性被害にあっていたことで、幼少期の数年間すっぽりと記憶がなかった理由が分かる気がしました。
多分、乖離状態のまま数年を過ごしたのだと思います。

精神科への通院や入院では完治も寛解もしなかった私は、摂食障害を自分で理解して治そうと様々な文献を読むうちに、摂食障害患者の多くに性的トラウマがあると知りましたが、高校生の頃の性的暴力は罹患後だったこともあり自分には当てはまらないと思っていました。でも記憶の底に埋もれていた幼少期の性被害を認識したことで、摂食障害の原因の一つが分かったように感じました。

自分を好きになれない理由
ところどころ抜け落ちる記憶や
覚えていない記憶の理由
時々何かに怯えてうなされる夢の理由
止められない自責の念の理由
たまに生きている実感がない理由
消えてしまいたくなる理由

それらの全てに、きっとこの幼少期の性被害が関係していると思った時

幼すぎて何をされているのかが分からず、されるがままになってしまった私は悪くなく、その後、自己防衛本能で記憶を封印し私を今日まで生き延びさせた自分自身をほんの少しだけ、労ってあげたいような気持ちになりました。

余談ですが、あの時の中学生男子は今ものうのうと私の実家近くで生きています。
地元主催のあるコンテストでミス○○になった女性を妻とし、ある農作物でその地域では、やり手若手農家として知られています。
その奥さんに、旦那さんが私にした事を話す機会があれば「女のお子さんが身近にいたら気をつけてくださいね」と話の最後は結ぶつもりです。



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