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黄金の荒野を拓く@宇宙ビジョン作家人響三九楽(ヒビキサクラ)
2020年8月30日 16:38
愛は試すものではない私は幸せだった。忠刻ダーリンや、熊ママや本多パパも幸せだったと思うの。この時期、姫路城は喜びと愛と光に満ちていた。姫路城下の民達も、城の外で私達の行列に出会うと、あたたかいまなざしを送ってくれた。播磨の地はいくつか細かい争いはあったものの、穏やかで作物も豊かに実る良き国だったの。それはきっとこの土地の神様が、私達をあたかかく受け入れてくれたからだと思うわ。だか
2020年8月29日 16:08
自分だけでなく、大切な人達のために強くなるその頃、私は姫路の民たちから「播磨姫君」と呼ばれているのを知って、くすぐったく思った。けれどそれは播磨の地に受け入れられたことだと思い、誇らしくも思った。その地で妊娠した私は嬉しさより、戸惑いの方が大きかった。以前の結婚で妊娠と流産を味わい悲しい思いをした私に「妊娠」は必ずしも喜ばしい出来事ではなかったの。もし、また流産したらどうしよう、そんな
2020年8月27日 15:54
見つけ、選び、決め、覚悟する私の結婚の裏側で密かに起こっていたことは、後に「千姫事件」と呼ばれる出来事だった。私は一歩間違えば、略奪される花嫁になるところだった!あとでこの話を聞き、心底ぞっとして震えた。「ああ、私、神様を味方につけておいてよかった・・・」神様は私の味方、昔そう決めた自分を褒めたわ。千姫事件の首謀者は、おじいちゃまが私との結婚を反故にしたあのおっさん、坂崎直盛だった
2020年8月23日 15:42
それを、ご恩送り、という私の気持ちを確認した刑部卿局の動きは、目を見張るほど早かった。おじいちゃまに私と公家とのご縁つなぎをストップしてもらい、おじいちゃまの孫で私の従姉になる忠刻様のお母様、熊姫様に話をした。熊姫様は「願ってもないご縁です!」と、積極的にこの話を進めて下さった。もちろん、忠刻様のご意思を確認済みの上でね!刑部卿局がしみじみ言った。「忠刻様も初めて船の上で姫様に出逢って
2020年8月22日 15:26
今すぐ幸せになるおじいちゃまに啖呵を切った私は、自分の部屋に戻り窓から秋の澄み切った空を眺めた。のびのび広がる雲を見ていたら、いつの間にか彼の顔が浮かんだ。もし、もう一度結婚するなら、あの人みたいな男子がいいわぁ~あの人って言うのは、ほら、桑名の七里の渡し船で出会ったイケメンの彼。彼と一緒なら、私は笑顔でいられそう。あの彼、本田忠刻さん、今どうしているのかしら。そんなことを雲のま
2020年8月21日 16:04
私の人生はもう一度、ここから始まる「お、おじいちゃま、それは・・・・・・あの坂崎なんとかという五十代くらいのおじさんでしょうか?」ドンピシャ思い当たる人物を思い浮かべ、恐るおそる尋ねてみた。おじいちゃまは「しまった」という渋い表情で、肩をすくめてうなずいた。その顔に、後悔先に立たず、と書かれていた。「な、なぜに?!」私はあっけにとられた。「すまん!千!!」おじいちゃまは、またわた
2020年8月20日 16:45
恋は落ちるもの奈阿ちゃんを東慶寺に預けたことで私はホッとしたのか、熱が出て寝込んでしまった。秀くんと、大阪城を失った私の心と身体のダメージは大きかった。私は高熱の中で、燃える大阪城を何度も見た。鳥かごの中で交わした秀くんとの最後のキス。一人鳥かごを出たわたしは、鳥かごの中に残っている秀くんに「逃げて!」と叫んだ。でも秀くんはフリーズしたように動かない。私はがんがん鳥かごを揺さぶり、鍵を探
2020年8月16日 14:48
生きているだけで、もうけもの刑部卿局に支えられ城を出たわたしは、五十代くらいのおじさんに迎えられた。「おお、おお、千姫様!よくぞ、ご無事で!!ささっ、こちらに。家康様も秀忠様も、千姫様を案じてお待ちになっています」あとで知った坂崎直盛、というおじさん、このどさくさに紛れ、嬉しそうに私の手を取ろうとした。その手を、厳しい顔をした刑部卿局がピシャリ!とはたいた。わたしはこの時呆然自失とし
2020年8月15日 15:32
切ない最後のキス砂漠に散った花びらの残骸を懐に抱え、わたしは大阪城に帰った。万策尽き城に戻ったわたしを、秀くんが笑顔で迎えてくれた。何の役にも立たなかったわたしは、泣きながら秀くんに抱きついた。秀くんはすべてをわかっていたように、わたしの背中を優しく撫でてくれた。その時決めた。秀くんと一緒にここで命を断とう、と。わたしはようやく顔を上げ、秀くんを見た。彼はわたしの瞳の中にある決意を掬い
2020年8月14日 20:32
自分がゴールを決めたら、運命が勝手にわたしを運ぶはず徳川との和睦が終わり、条件通り大阪城の外堀を埋める工事が終わった。「外はワイワイガヤガヤ賑やかね」そう刑部卿局に話しかけたが、彼女はわたしの言葉が聞こえていないように何かを一心に考えている。わたしが彼女の目の前で手を振って、ハッ!と我に返り「どうかいたしましたか?」なんて言うの。最近の彼女はどこか、おかしい。沈んだ顔をして無口かと思うと、
2020年8月13日 20:34
運命は自分の思いで、変えられるその年の十一月、ついに徳川と豊臣の戦いが始まった。初めは徳川が有利だったけど、真田丸で豊臣はよく踏ん張った。わたしはもちろん豊臣の応援をしながらも、心のどこかでおじいちゃまやパパやママ、弟達のことを考えていた。わたしは城の中でオロオロしながら、自分の身体が二つあれば、いいのに!わたしが二人いれば、いいのに!そうしたら心置きなくわたしの思いを分け、そこにい
2020年8月12日 15:18
人に嘘をつく時は、まず自分に嘘をついて心をごまかす慶長十九年八月、秀くんは亡くなった秀くんパパの十七回忌の準備をしていた。十七回忌を行う京都の方広寺は、五年かけて大仏殿を作り、四月に梵鐘が完成させた。秀くんはそこで大仏の開眼供養をする予定だったの。ところが、その梵鐘に記された文字が大問題になった。そこには「国家安康」と記されていたのね。わかるかしら?おじいちゃまの名前、徳川家康の「
2020年8月9日 16:48
人生にもし・・・はないわたしは運命にたかをくくっていた。たぶん何とかなるわ、てね。おじいちゃまはわたしに甘い。だから、ほら、わたしの願いも聞いてくれたじゃない?と。そんなベタベタに甘いわたしは、このまま安穏と秀くんと大阪城で暮らしていけると信じていた。今のままの暮らしがずっと続くと思っていた。そんなわけないのにね。そんなことできないのにね。おじいちゃまは、いろんなタイミングを計
2020年8月7日 17:02
本当の答えのあり場所、知っている?わたしにできることは、徳川のおじいちゃまにお手紙を書くことだった。豊臣に嫁いでから、おじいちゃまに長らく会っていない。だけどおじいちゃまはきっとわたしのことを覚えていてくれ、気にしているはずだと確信していた。「おじいちゃまに、手紙を書きたいの」形部卿局が侍女に紙と硯を用意され、彼女自ら墨をすってくれた。その間、わたしは頭の中で、手紙に書く言葉を