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問いの編集力

インターネットに情報が溢れ、生成AIが発展するにつれ、「正解」の価値が相対的にどんどんと下がっていると言われています。

その一方、「問い」の価値が上がっているとされています。

書籍『問いの編集力』は、「問い」を引き出す際の思考のプロセス(編集の過程)について解説するものです。

問いを以下の4フェーズに分解し、各フェーズごとに順次解説する流れとなっています。

  • 「問い」の土壌をほぐす

  • 「問い」のタネを集める

  • 「問い」を発芽させる

  • 「問い」が結像する

これらのフェーズにおいて重要な概念や考え方が紹介されています。

その中から、いくつかピックアップしてご紹介いたします。

アーキタイプ

ひとは、何かを理解したり、整理したりするときに、様々な型を使います。

その代表が以下の3タイプです。

  • 典型:ステレオタイプ

  • 類型:プロトタイプ

  • 原型:アーキタイプ

「〜といえば○○」のように、とある言葉から連想されるものを典型:ステレオタイプと呼びます。
「日本の花といえば桜」のように、最もイメージしやすい例のようなものです。

「○○とはつまり〜」のように、共通の特徴をまとめたものを類型:プロトタイプと呼びます。
「ガンダムとはつまりV字の頭部アンテナを持つリアルロボット兵器」のように、帰納法的に抽出した特徴のようなものです。

「○○はそもそも〜」のように、起源をたどるものを原型:アーキタイプと呼びます。
「民主主義はそもそも古代ギリシア(特にアテナイ)における政治体制から…」のように、例えば歴史的な経緯や語源のようなものです。

※アーキタイプは、心理学や文学では意味合いが異なるようです

この中で、原型:アーキタイプは、物事の本質を捉える上で非常に重要です。

私達は、物事を自分の視点で捉えます。
現代で取り扱われているものを、そのまま昔からずっとそうであったかのように解釈します。

例えば、現代日本の民主主義は以下のように捉えられているように思えます。

  • 多数決

  • 選挙

  • 代議制

  • 利害調整

しかしながら、民主主義の歴史を学ぶとこれらはただの一側面、あるいは誤解であることがわかります。
(多数決は明確に誤解)

※横道にそれますが、民主主義の歴史についてはコテンラジオがオススメです。

このように、もともとの成立過程を見つめ直すことで、物事の本質に迫ったり、新たな切り口を見つけたりすることが可能になります。

アーキタイプは、ステレオタイプやプロトタイプと異なり、ぱっと想起するものではありません。
アーキタイプを辿るには、調査・整理というコストがかかります。

だからこそ、アーキタイプを明示的に意識して活用することは、より深い「問い」を立てることにつながると言えます。

アブダクション

ひとが何か未知のものを推し量ることを「推論」と呼びます。

推論としてよく知られている方法が以下の2種類です。

  • 演繹法

  • 帰納法

演繹法は、法則から物事を推測することです。
よくある演繹法の例は、以下のようなものです。

「すべての人間は氏ぬ」
「ソクラテスは人間だ」
「したがって、ソクラテスは氏ぬ」

帰納法は、複数の物事から、一般化できる法則を抽出することです。
以下のような考え方が、帰納法と言えます。

「ソクラテスは氏んだ」
「プラトンは氏んだ」
「アリストテレスは氏んだ」
「哲学者は、氏ぬかもしれない」

ただ、ひとの推論には、演繹法と帰納法だけでは説明がつかないものがあります。
一足飛びに思いついたかのような推論をすることがあります。

多くの人が何かについて長い間考えたあげく、急にぱっとすべてがつながった感覚があると思います。
これはあたかも、「ただの思いつき」のように見えますが、立派な推論です。

アメリカの論理学者のチャールズ・サンダーズ・パースはこのような推論を「アブダクション」として提唱しました。

このアブダクションは、以下のようなプロセスで行われます。

  • 「驚き」の発見

  • 「仮説」の仮組み

  • 「確証」に向けた検証

アブダクションは「仮説」を用います。
その仮説をもって、目の前の事象をいっきに腹落ちさせるような説明を行います。

観測された事実のなかから「つながり」「関係性」を見出し、それが説得力のあるストーリーとなるかを考えていきます。
「connecting the dots」に近い思考法とも言えます。

推理小説の主人公さながら、物事のポイントポイントを見出して、それらをつなげていき、納得のいく仮説を導きだします。

そして、その中で紡ぎ出したストーリーは、やがて自分にとって「信念」になっていくことがあります。

アブダクションによって得られた仮説が間違っていることは往々にしてありますが…
社会活動においては、アブダクションから生まれた「信念」が動力となって、仮説や偶然を、正解や必然に変えていくことがあります。


この書籍では、「問い」を作り出すための様々な思考法がたくさん掲載されています。

それぞれの思考法は、特定の領域に即効性のあるような「ハウツー」や「ティップス」ではなく、普遍的なものです。

めちゃくちゃ面白かったので、ご興味が湧いた方はぜひ手にとっていただければと思います。

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