佐久穂町の昔の集落の暮らし 羽黒下④ ~羽黒下駅をとりまく当時の景色 前編~
小海線、羽黒下駅。駅すぐ近くにある林業を営む『株式会社吉本』から漂う木のいい香りが、鼻をくすぐります。駅を中心とした羽黒下地区は、この地の歴史と深く関わる『株式会社吉本』をはじめ、たくさんの商店が立ち並び、東町と合わせて華やかな雰囲気のまちだったといいます。ここに来れば何でも揃う、と当時は言われていたほど、様々な種類のお店がありました。今はもう閉まっているお店でも、残っている看板からは当時の面影が感じ取れます。子どもたちがたくさんいた当時の様子はどんな雰囲気だったのでしょうか。羽黒下公民館で行われているサロンにお邪魔して、お話を伺ってきました。
こちらの記事では、
高見澤千恵子さん(89)
中野さつきさん(81)
にお話を伺いました。
羽黒下駅周辺は、小海線を利用する人が行き交い、夏には大勢でにぎわうお祭りもあったそうです。子どもたちも、たくさん集まったようですね。
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汽車だったころの小海線は人がぶら下がるほどの満員電車だった
インタビュアー(以下 イ) 「中野さんは、ずっとこちらにお住まいですか?」
中野さん(以下 中) 「私はね、昭和42年に結婚してこっちへ。駅のそばがいいなあと思って。遠くだと、歩かなけりゃならないから。高校の頃は40分も歩いて駅に通ったからね。だから駅のそばがいいなあと思って。」
高見澤さん(以下 高) 「いいとこへ来たね。」
中 「ええ、おかげさまで(笑)」
イ 「高見澤さんは、どちらから?」
高 「私は佐久市の安原。義父が羽黒下で、写真屋をやってたの。崎田でもちょっとやってたみたいだけどね。私が昭和35年に来たときはもう、あんまりやってなかったね。」
イ 「羽黒下のお話を聞くと、『株式会社吉本』にお勤めの方がたくさんいらっしゃいますね。」
中 「吉本さんがあったから、ここが栄えたの。」
高 「そうそう、栄えたよね。」
中 「おかげで、鉄道も敷かれたしね。」
イ 「小海線は、よく使ってたんですか?」
中 「私が通学していた時は、汽車で。」
イ 「当時小海線を使うのは、学生さんがやっぱり多かったですか?」
中 「たくさん乗ってましたよ。もう汽車の所から、ぶら下がるようにして。」
イ 「えー!そんなにですか?!」
中 「ぶら下がって、こっちから押し込められて・・・(笑)私が学生だった頃は、汽車が煙吐いてたから、顔は真っ黒になってね。」
イ 「まだSLだったということですか?」
中 「そうです、そうです。汽車です。(ぶら下がるっていうのは)ドアは閉まるんだけど、混んでて閉まらなかったってことだね。人口が多かったよね、羽黒下だって。」
高 「今は、あちこち空いちゃったからね。」
イ 「駅員さんも、羽黒下はたくさんいたと聞きました。」
高 「官舎がね、駅の向こうにあった。」
イ 「駅員さんが泊まるためのところですか?」
高 「家族がね。結構いた、駅の北側にね。今は町営かな?」
中 「警察の宿舎のことかい?」
高 「あ、警察もあったね。」
イ 「列車の本数は、今よりも多かったですか?」
中 「多かったですよ、とんでもないよね。もっともっと通ってたよね。」
高 「大日向村と栄村があったからね。そういう人が羽黒下とか海瀬から乗ったから。」
中 「バスだっていっぱい通ってたのよ。駅のとこまで大日向線のバスが来たもんね。」
イ 「千曲バスですか?」
中 「そうです、国道の方なんかいっぱい通ってたもんね。」
イ 「今は車の生活になって、変わりましたね。」
中 「今は、若い人の顔あんまり見なくなっちゃったね。」
駅前での盆踊りはたくさんの人が熱狂する一大イベント
イ 「人が多かったときには、盆踊りもあったと聞きました。」
高 「盆踊りはさかんでしたよ。」
中 「上区から盆踊りを見に来ました。羽黒下の盆踊りは有名で。」
高 「駅前でね。賑やかだったね。お盆中楽しみだった。」
イ 「えっ!一晩じゃないんですか?」
中 「一晩じゃないですよ。」
高 「特に16日は本当に賑やかだったけどね。仮装もやったね。」
イ 「どんな仮装をするんですか?」
高 「その頃の大河ドラマ。みんな賑やかでね、“泉会”(羽黒下の女性のコミュニティ)で何かしら考えて仮装したんだ。」
イ 「時代劇みたいな感じですか?」
高 「そうそう。」
イ 「お祭りは、いつ頃までされてたんですか?」
中 「結構長くやってたね。羽黒下の駅の近くの人たちが音で寝られなくてだめになったんだったかな(それくらい賑やかだった)。」
高 「えらい人数いたよね。」
イ 「よそからも来てたんですか?」
中 「有名だったから結構来てましたよ。男の人たちは太鼓叩いたりしてましたね。高いのを四角く作って、やぐら建ててね。太鼓を上にのっけて、提灯をこうやってぶら下げて。今でもやりたいなあと思う。昼でいいから、その辺で踊りたいなあって人もいてねえ。その頃のテープがあるかいって聞いたけど、もうダメになっちゃってたの。音を聞けば、前やってた人なら踊れるってわけですよ。」
イ 「今は途絶えちゃったんですね。残念ですね。ちなみに、練習は忙しかったですか?」
中 「練習なんかしたかい?(笑)」
高 「(笑)」
イ 「ぶっつけ本番だったんですね(笑)」
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汽車だったころの小海線と、駅前での盆踊り。大勢の人が集まった様子を想像するだけで、とても楽しそうですね。次回は女性のくらしについて伺いました。羽黒下に住む女性たちの絆は、とっても深いようです。
文 櫻井麻美