見出し画像

おみやげ、そのかさばる気づかい

オランダから沖縄に帰るときに、おみやげをほとんど買わなかった


精神不安定なところをやっと飛行機を予約し、何ヵ月いるか分からない帰省先に持っていく荷物をまとめ、コロナのテストを受けて、と慌ただしかったので、余裕がなかったのだ。


83リットルのスーツケースにやっと服や書類を詰めこんだあと、夫が冷蔵庫を開けてチーズをおみやげに持って行ってと言う。チーズといっても1kgの分厚いかたまりだ。手渡されたそれを、あまり衝撃を受けないスーツケースの中央部分に押し込んだ。


空港ではいくつもの店が、風車や木靴のデザインの箱入りチョコレートなんかを置いている。ミッフィーの形の缶に入ったキャンディーもある。少しくらい家族に買っていこうかと思ったけれど、結局買わなかった。荷物をこれ以上増やすと重量オーバーになってしまうかもしれない(実際ぎりぎりだった)。


祖母のために買っていた、アンティークの小さな陶器の置物とは別に、おみやげとして買ったのは、姪っ子といとこの娘へのものだけだ。もうすぐ2歳の姪っ子にはミッフィーの4センチくらいのぬいぐるみ、3歳半のいとこの娘には塗り絵とシール。小さい子どもには何かあげたくなる。


オランダから帰ってきておみやげのひとつもないのは礼儀に欠けるかもしれないが、親戚と友人みんなに義理を尽くすのは本当に大変なのだ・・・。結婚祝いのパーティでは、ありがたいことにみんなお祝いを包んでくれて助けられた。オランダに着いてからそのお返しに、紅茶やコーヒー、チョコレートなどの詰め合わせを送った。感謝のメッセージカードを添えて。

そして友人からもお祝いをもらったけれど、それにはお返しをまだしていない。私はつくづく社会人失格だと思う。


職場によっては、ゴールデンウィークや正月などの休みに旅行をしたら、かならずおみやげを買って持って行かなければいけないらしい。特に、有給を使っての旅行だとおみやげを用意するのは「絶対」で、上司や同僚にひとりずつ手渡さなければいけないところもあると聞く。


そんなに義理堅くては疲れるだろう。

いや、好きならいい。職場の仲間が好きで、おみやげを渡すのも渡されるのも楽しみな場合。また、おみやげを誰かにあげるという行為そのものが好きな場合。けれど、たいてい職場というのは仕事をするときにだけ関係していたい人たちの集まりであって、羽をのばす(そして羽目をはずす)旅行中におみやげなど買いたくない。ひと箱700円のクッキーでも数箱買えばお札がなくなるし、ただでさえ財布のひもがゆるみがちな旅行中に金銭的にも負担だ。


行きにはスーツケースに余裕を持たせたつもりでも、帰りにはジッパーが閉まらないほどになる。自分のために置物や食べ物やアクセサリーを買うからだ。現地が思いのほか寒くて、急いで上着を買うようなこともある。

旅好きな人の中には、旅行に持っていく下着や靴下や服は捨ててもいいもので、宿のゴミ箱に捨てていくのでかえって荷物が減るという人もいるそうだけれど、念願のパリ旅行に捨ててもいいパンツやブラウスで行ける人はごく少ないだろう。私はそのとき持っている一番良いものから持っていく。


職場の人に義理を通す人は、親兄弟や親戚、パートナーの親、近所の人などにも礼儀正しく、おみやげを買うだろう。そうなるともうおみやげだけでかなりの出費になる。そして、ものすごくかさばるに違いない。疲れた旅の帰り道で、電車や空港のトイレに置き忘れるようなこともありそうだ。


繰り返すけれど、好きな人にあげるのならいい。だが、職場の暗黙のルールによって、親しくもない相手におみやげを用意するのは妙な習慣だ、と不義理な私は思う。渡されるほうも「どうでした?向こうは寒かったですか?」なんて興味のない世間話を返し、旅行に行ける人と行けない人の間での溝はよけいに目立つ・・・。

というように、はるばるオランダから帰って来るのにおみやげを用意しなかった私は、他人の事情にまで口を出して正当化する。


夫が出がけに持っていけと渡したチーズは、私の両親にとても好評だった。とくに父は酒のつまみにして、クラッカーやオリーブと盛り合わせて楽しんでいた。こんなに大きなかたまりなんだから、何分の1か切っておばさんにもあげようと思っているうちに、すっかり全部食べてしまった。


いいなと思ったら応援しよう!