フォームと重量

見た目に派手な重いウエイトを持ち上げることはすぐにはできないし、無理したら怪我をしてしまう。
でも、軽くても綺麗なフォームで１回ずつ丁寧に上げることならできる。

そう思って筋肉の塊みたいな人達ばかりの広いジムの隅っこで、一人でバーベルを担いでスクワットをやっていた。

遠くからチラチラと女性トレーナーの視線を感じた。
ウエイトが軽いから初心者だと思って事故の無いようにさりげなく見守ってくれてるのかと思っていた。

「スクワット上手ですね。
もうどれ位やってるんですか？」

インターバル中に不意に後ろから声がしたので振り返ると、さっきの女性トレーナーが立っていた。

このジムは本格的に鍛えている人が多く、トレーナー自身も皆トレーニングに励みハイレベルだ。決してお愛想で褒めたりしないのは知っている。
それにきっと、わざわざ声を掛けに来てくれたに違いない。

「うわぁ！嬉しい！ありがとうございます！」
感情より先に言葉が出ていた。

「バーベル競技の選手だったトレーナーがきっかけで本格的にトレーニングを始めたんです。基本が大事！重量よりフォーム！それがそのトレーナーの教えでした。やってみるとバーベルってとても面白いですね」

「私もバーベル競技をやってたんですよ」
トレーナーが嬉しそうに言った。
そんな人に褒められるなんて、私は余計に嬉しくなった。
あぁ、基本やフォームの大事さを教えてくれたトレーナーのJくんに、褒められたよと伝えたい！！

その辺のTシャツと短パンを着て、軽いウエイトでスクワットをしていても、見ていてくれる人は必ずいる。

Jくんにはトレーニングを教わっていたけれど、それはそのまま人生においての考え方にも通じるものだった。

地味でもいい。
自分にできることを地道にひたむきに丁寧に。
そうすれば、分かる人は分かってくれる。