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entanglement 彼岸花
車は街灯も届かない草の生い茂る暗い路肩に止まった。
「ここだよ。降りて」
『俺』はそう言って後部座席からカメラを取り出した。
今日は写真家である『俺』の写真集撮影の手伝いだ。
手伝いと言っても特に何かをする訳ではない。
撮影期間中は一人で撮影に没頭したい『俺』は、私の会いたいという誘いのしつこさに根負けして、たまに同伴しても差し支えない撮影に手伝い名目で連れて行くのだ。
夜の風景ばかりを撮る
タロットカードと写真
写真を撮り貯めていくうちに、特別な思い入れやエピソードのある写真というのができてしまうことがある。
その写真を撮るに至った経緯や心情、偶然のできごとなど、その一枚には背後にストーリーが潜んでいる。
人物を撮った時には、被写体となった人がその写真に収まるまでのストーリーもプラスされる。
時に写真が思いもよらなかった自分の本心を暴き出すことがある。
自分でも気づかずに心の奥底に秘めていた本心が意識よ
entanglement 桂花
今から15年ほど前の話だ。
私は友人と、その友人である桂花さん宅を訪れた。
桂花さんは私より5つほど年上で、そろそろ40代に手が届きそうという年代の、料理が得意な女性だった。
複雑な家庭環境で育った桂花さんの部屋には、亡くなった彼女の父親の写真が飾ってあり、「昔は仲悪かったんだけど今は感謝している」と愛おしそうに写真を撫でる桂花さんの姿が印象的だった。
当時の私は両親と仲が悪く、そんな風に家族に
entanglement 漂流者
どうやら『俺』は自分の写真集には日本語タイトルとは別に英題もつけたい性分らしい。
スナップ写真をまとめた白の写真集の表紙には、日本語タイトルと寄り添うように筆記体の英字タイトルが打ってある。
私は筆記体が読めない。
賢くも無いし勉強も嫌いだけどお利口さんの良い子だった私は一夜漬けだけは得意だった。
そうするしか無かったし、それしか出来なかった。
翌日に点を取るためだけの勉強。
明後日には忘れて
entanglement レトルトカレー
ついにやってしまった。
キツイ言葉を投げつけるだけでは収まらず、とうとう私は母に手を上げてしまった。
うずくまる母から目をそらし、私は逃げるように自室に入ってドアを乱暴に閉めた。
絶縁していた両親とは、思いもよらぬ形で再会した。
父方の祖母の葬式後、父が脳出血で倒れたのだ。
親戚からの呼び出しの電話に、父なんか勝手に死ねばいいと私が突っぱねると、母が軽度の認知症になっていて困っていると告げられた
entanglement 決心
その階段はいかにも危険な感じがした。
急な角度の螺旋階段は段差も大きく、よほど注意をしないと足を踏み外しそうだった。
年老いた母親には不向きな物件であることは一目瞭然。
でも、不動産屋を何件も門前払いされ、借りられる部屋はここしかなかった。
今のマンションから早急に母を転居させる必要があった。
四の五の言ってはいられない。
それでもやっぱり頭をよぎる不安と、安全とは言えない部屋に母を住まわせる罪
entanglement 二つの時計
白の写真集の表紙が見えるように平置きでテーブルに置いていると、写真集が視界の端に少しでも入ると必ず二度見をしてしまう。
その表紙の写真に写っている後ろ姿のカップルの女性が毎回私に見えてしまうからだ。
背格好や髪型、雰囲気がまるでそっくりなのだ。
そして、カップルの男性が『俺』に似ているなと思い始める。
でも、そんな写真を二人で撮った記憶もないし、ついさっきも見間違いだと確認したばかりだから絶対に
entanglement オバケの部屋
我慢の限界。
私はふたたび引越しを決めた。
この土地には一ヵ月前に越してきたばかりだけど、暖かくなると同時に部屋のあちこちから続々と虫が登場した。
文字にするのもまさしく虫唾が走る、あの黒光りしたすばしっこいヤツのチビ。
あぁ、生まれちゃったのね。
予算内で収めるために決めた古いアパートだから多少の虫は覚悟してたけど、読みが甘かったんだな。私にとっては腹立たしくて気持ち悪くて最悪のできごとだけ
entanglement テレパシー
それは突然やってくる。
重量や実体を伴う芯のある静電気のようなものが全身を包みこむ。
数日前の夜、不思議な夢に現れたその人は、それから毎日昼間にもやってきた。
起きている時にくるのはこれで三回目だ。
一回目は自分の身に何が起きているのか全く把握できず、二回目はもしかしたらと感じ、今回でやっぱりその人だと思うに至った。
やって来たとは言っても、姿も形も声もない。
ただ私の感覚がリアルにその人を感じ
entanglement ゼロライン
社長は二ヶ月後の解雇を私に告げた。
長引くコロナで売上の低迷は肌で感じていたし、勤務先の販売店の撤退も致し方ないと思えた。
別の販売店に私を押し込めるだけの余裕なんて会社にはもう無かったし、会社や社長を責める気は全く起きなかった。
「色々手は尽くしたのだけど.......」
すまなさそうな社長の声に、私はこの会社で働けたことを感謝していると伝えた。
ほとんどニートに近かった私をアルバイトとして迎