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STEP5 コロナ禍の水族館を 思ってくれたあなたへ。

 あなたは、これまでどんなときに水族館に行きましたか。子供のころ親に連れて行ってもらって、学校の遠足で、恋人とあるいは恋人になったらいいなと思う人と、そして生まれた我が子と。そのとき、どんな会話をしましたか。水族館はあなたにとってどんな場所でしょう。

 水族館には、使命があると知っていましたか。「レジャー」「教育」「研究」「種の保存」。なんと4つも。多くの人は、レジャー施設として水族館を楽しみ、自然科学に関心がある方は教育の場としても水族館を利用して下さっているのではないかと思います。「研究」や「種の保存」は関係者や一部の水族館マニアの方くらいしか知らないかもしれません。
 そんなわけで、コロナ禍以前の水族館は、とにかくエンタメ施設として、沢山の方に来てもらえるよう努力をしてきました。しかし、これからはそういう訳にはいきません。新しい生活様式、ウィズコロナの水族館を目指さなくてはいけません。

 コロナ禍で、急速にさまざまな物事のリモート化がすすみました。生き物や自然はカメラを使えば離れた場所からでも見て、聞くことができます。匂いは閉じ込めて届けて、触覚も別の物質で再現して、保存方法を工夫すれば食べることだってできるかもしれません。なんでもリモートで楽しめます。しかし、それだと、自然を再現している水族館よりも、本当の自然の方がスケールが大きく、ありのままを楽しむことができます。


 「水族館では本物を見せることが大事」と色々な方から言われてきました。職場の上司、一緒に仕事をする学校の先生、水族館で何をするか悩んだときにかけてもらったこともあれば、自分は理解に苦しむ企画を実施することになった時、とにかく水槽があればいいから、という形で言われたこともあります。私の気持ちはともかく、これまで、水族館では本物の生き物を見てもらうため、生き物に興味がない方にも楽しんでもらうため、アニメやキャラクターとコラボレーションしたり、プロジェクションマッピングで彩ったりして。足を運んでもらう工夫をしてきました。しかし、水族館に来てもらうことに制限ができた今、水族館には何ができるでしょう。

 ちなみに、みなさんにこのメッセージを送る私は、水族館で働く飼育員です。飼育員というと特別な職業のように感じる方もいるかもしれませんが、普通の会社員です。特別な資格もなく、採用試験を受ければ働くことができます。私も今は水族館部門にいますが、配置転換で営業部や経理部に異動になるかもしれません。

 私は、生き物を見るのが好きで、拾った石やどんぐりを見せびらかす子供のような気持ちで、生き物をみんなに見てほしいと思っています。私の宝物を見たあなたが、私と同じように喜び、笑顔になることを願っています。でも、私はもう子供ではありません。ほとんどの人がどんぐりを見ても喜ばないと知っています。だから、私はこのどんぐりをあなたが驚く方法で見せたいと思っています。ぴかぴかに磨いて、沢山の種類を集めて、意外な一面を見せて、私の宝物のすばらしさを伝えます。

 私の宝物を見て、あなたの心が動くさま、またそんな同行者を見て喜ぶあなたが見たいと思っています。 

 本物が見られない中で体験するとはどういうことだろう、初めての緊急事態宣言が出た時から何度も考えていました。生活に必要なものは買えるが、それ以外はお休み。ライブや映画も楽しめない中で、意外な発見がありました。「課金」するという楽しみです。これまで、収益のことばかりを考えた企画は、儲けたいという欲が見えて、水族館にふさわしくないと思っていました。しかし、推しアーティストの決して安くはないグッズを買えて嬉しかったと話す後輩や、直接的なリターンのないクラウドファンディングにどんどんお金が集まるのを見ると、好きな人やものにお金を払うというのは喜びや楽しみであるということに気づきました。
 水族館のあまり知られていない二つの使命、「研究」「種の保存」への力の入れ具合は、水族館によって差があり、傾向としては営利目的の民間企業が運営している場合は、力を入れにくい分野であるように思います。なぜなら成果が出にくく、また目の前で見たり触れたりできるわけではないため、商品化が難しく、収益につながらないからです。このことを批判するつもりはありません。私の会社員という立場は、収益で成り立っているからです。
 しかし、物事の楽しみ方として、「応援する」に気づいた人が増えた今、これまで収益をあげづらいために、思うようにできなかったことに挑戦するチャンスなのではないかと思えてきました。

 このメッセージを読んでくれているあなたは、どんな水族館のどんな活動を応援してみたいと思いますか。

 私は、あなたが応援したくなる水族館を目指したいと思っています。そして、あなたの思い出の場所を残したい。これからも水族館であなたの笑顔が見たいのです。


 最終回、今の私はこんなことを考えていました。

 で、具体的に何をするのか。決まってないけど、自信をもって言わなければ、講師の先生に申し訳ない。

「私は自分の思いを形にできる。人と繋がれる。」

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