私のてのひら
「自分を傷つけるなよ」
やさしい微笑みだったと思う。その声は、私の心臓をまっすぐに突き刺してすくいあげてきた。
「君のてのひらと約束しよう」
そのことばと音が、世界一愛するバンドのステージが私を救ってくれたことは、これからも絶対に忘れない。
バンドの名前はレトロリブラという。彼らのワンマンライブで、たしかにその時愛するライブハウスに深くやさしく響いた音とことばが、今も私を守ってくれていると、強がりでもなく本気で信じられるくらいに、その音楽は私にとって無敵になれる力をもっている。わたしの一生を、今もこれからもきっとずっと照らし続けてくれている、道標のような、お守りのような、思い出の一つ。その時の歌のタイトルは、「てのひら」という。私の最愛の曲。
ライブハウスにまっすぐ響く音が好きだ。私の人生の全てを見透かした上でそっと笑って抱きしめてくれるような、泣くことを赦してくれる、そういう音楽に巡り会えて私は生かされた。後悔していた日々すら、世界の全部がひっくり返ってしまったように思えた。自分が必死に踏みしめ足掻き続けていた、大地を揺るがすような、心臓を掴んで二度と離さないでいてくれるような、そういう存在が私にとっては、レトロリブラの音楽で、このバンドのギターボーカルの松下譜割さんの歌だった。
全てを語ったら夜が明けるどころではすまなくなるので、冒頭で触れている「てのひら」という歌に対して感じていることなどを主に、今夜はかこうと思った。大好きなもののはなしをすることはなんだかくすぐったくて、言葉にするのはどうにも難しくて言い尽くせない、でもそれでいて永遠に綴っていたくなるような不思議な気持ち。それを一言で言うならば、君に触れたい、というような単純な愛だと思う。
私は昔、自分のてのひらをひどく傷つけてしまった。それは物理的に、直接的にというわけではないけれど、でも、魂は一度壊れてしまったような気がした。もう二度と、誰にも見つけてもらえないんじゃないかと期待することにも疲れて怖くて泣きじゃくった日々に、それでも本当は愛されたかったんでしょうって言ったら、10代の脆く苦しいままだったあなたは怒るだろうか。怒るかもしれないけど、信じないかもしれないけど、生き続けていれば、あなたを救うてのひらがあるのだということを、伝えたい。
ずっとあの頃のわたしを置き去りに、無理矢理前に進もうともがいたことに、終止符を打つ必要はないと言ったら甘えかもしれない。でも怖かったから、許されたかったら、いっぱいいっぱい悩んでしんどさに躓いて俯いた、膝を抱えているわたしが心臓の脆いところで息をしてくれていたから、今の私があるのだと思う、音楽を愛する私にたどり着けた、出会うことができた。そう思っている。
私は、今やっと自分のことが嫌いでも諦めきれずに生きてきてくれた私に、ありがとうっていえるんだ、抱きしめたいって思えるのだって感じて。言葉にするのは恥ずかしい、誰かにすきだとか言ってもらえるならばそれもまだ少し怖いかもしれない、傷つきたくないから否定しようとすることも、あるのかもしれない。でも、音楽を愛することで、私は魔法みたいにそれに救われた。これが魔法なのだとしたら一生解けずに、どうかそばに。そして、希望を抱いて笑う私で、好きなものに、人に、触れられる時間が増えていけばいい。
好きな音楽のことを思うと、胸が一杯で頭が真っ白で、人前で話すのがへたくそな私だから、ここに歌への想いをもう少しだけ書き留めておく。身体が思うように動かない時も、助けてをうまくいえない時も、自分が泣きたいことを認められなかった時も、いつも寄り添ってくれた、私が抱きしめてあげられなかった私自身を包み込んでくれた「てのひら」へ。
泣いたり笑ったりさせてくれて、たくさんの感情を私にくれてありがとう。大好き。君がずっといてくれたから凍てついた夜を幾度も越えて、また春のもとへやってきた。嬉しい、て言わせて。音楽は決して目にはみえないけど、もしそこに色があるならきっと眩くてあたたかく、涙が出そうなほど澄んでいるんじゃないかな。重さも悲しみも、喜びもやさしさも、混じり合った人生そのもののような音に、勝手だけど私は愛をもらって、色づく世界を信じる力を今ももらって、歩いている。これからも、そうやって生きていく。ずっとずっと大事にすると約束する。
松下譜割さんのてのひら、という楽曲は残念ながらネットには載っていない(レトロリブラのライブでやることはある、CD音源もあり、ただ結構前のものなので入手が難しいかも)けど、私はいつかギターでこの歌を弾けるようになるのが夢なので、そうしたら弾き語り動画載せて布教します(笑)
続きはまた明日。
【音楽について】レトロリブラ https://twitter.com/retrolibra2021
松下譜割 https://twitter.com/naoki_gulliver
【写真】amano yasuhiro https://twitter.com/hiro_57p
(大好きなカメラマンのお写真、みんなのフォトギャラリーからお借りしました)