BFC2落選展一言感想
こんなに力のこもった作品たちの感想を書かない理由もないと思うので、書いてみました。ほんとに一言だけです。また、「わからない」というのはひとえに私の読解力不足です。あしからず。
001『二〇〇四年四月九日深夜官邸前』
井上陽水の「傘がない」チックな感じ。オチも面白い。
002『空き缶を自転車に積む雪こんこん 俳句連作「あかねさす」』
「大仏に瞳孔のなき爽気かな」「臥す鹿の眼にあかねさす祈りあり」がよかったです。ちょっと「死ねと書かれ~」の部分の連作がストレートすぎるきらいがありました。
003『【詩歌トライアスロン】眠らずに』
「暴力を振るう/気配を/出している/人を殴ったことのない腕」が、「緩やかに良くない方向に向かっている」と対応しているようで、いい表現だなと思いました。緊張感が伝わってきました。
004『♡+♪(邦題:愛の挨拶)』
何となく読み解けそうで読み解けなかったです。「読み解けそう」と思わせることはこの詩(物語)にとってよいのか?という疑問はあります。
005『絶対に芥川賞を獲れる方法』
いや、普通に面白いです。もうひとひねりあったほうが好みですが…
006『フラグ回収人の奇妙な人生』
面白いアイデアでした。「学校が楽しい」「父親の単身赴任」「罪の告白」のそれぞれの分量がアンバランスなのが気になりました。
007『新番組・仮面●イダーイマジネーション』
諧謔的で面白かったです。「想像力で戦う」部分をもうちょっと見てみたいです。
008『黄昏便器譚』
糞便派ですね。便器に座りたくなります。
009『宇宙と〇〇』
「私の頭の中の生き物」を「滑稽だと大笑い」するのはギクリとします。
010『未熟なテロリストと王女の踊り』
想像の建造物の破壊と「家庭の修復」が対比的に描かれているのがうまいです。ただ、失踪するのは「カーラ」ではなく弟の方(もしくは壊すのはカーラの方)が設定としてはよかったのではないか、という感想をもちました。
011『植物園語しょくぶつえんご』
不思議な詩です(詩ですよね)。「人以下の見世物」になる「僕」はどんな存在でどんな時代なのか。ディストピア感があります。
012『同人少女はエリュシオンの夢を見る』
意外に同人部分の地の文章がうまくて、そこが会話文のありきたりさと齟齬を起こしているように見えるのはねらってのことなんでしょうか。
013『ゲームブック』
ゲームブックで物語るというのは相性がいいのかもしれません。人生は選択の連続だし。結末が「出発点へ戻れ」だとちょっと弱いのかも。
014『オリジナルチキン3ピースセット』
ふふってなってしまいました。「不祥事でメンバーが欠けるのが最近のトレンド」とか。これもAIを使ったものでしょうか?
015『プロジェクト=ジルチ』
「リモートウォー」のアイデアは昨今の事情と相まって面白いですね。読ませたい戦闘部分の描写に疾走感があると読みやすかったかも。それにしても、「空想(物語)→現実」みたいな構成をいろいろな作品がとっているのが気になりました。
016『心願』
「宝くじ三等」のくだりがふふっとなりました。もしかしたら神社でお参りでもしてるのかもしれない、と思いました。
017『文取り』
文がうまいです。「小判がない」をキーワードに、語りが騙りに変わっていく小話様相が読んでいて心地よいです。
018『幻の魚』
面白いです。「魚」は何を表しているのか、「鍵穴」は何なのか、全体的に性的なイメージが漂っており、そこらへんと解釈の難しさが好みを分けそうでした。
019『人柱(ひとばしら)』
世相を書く小説は勇気がいります。時間を逆行している意図はわかりましたが、もうひとひねりが私の好みでした。次元をあげる器機は買っちゃったんですかね。
020『セカイノオワリ』
なるほど、と思いました。ちょっと説明が多くて平板になってしまったのが残念。
021『法律文書によるショートストーリー』
こう言う形の小説?を初めて読みました。面白いけど、もうちょっと料理できるのかなあ。
022『ナルキッソスの檻』
ナルキッソスなので、「あなた」は自分自身も指すのでしょうか。それとも、そんな自分自身のような理想の相手?でも「檻」だから、少々不穏ですね。もうちょっとリズミカルだと好みでした。
023『星くんのひみつ』
かわいらしい小説です。結構好きです。
024『2019-06-12 01:24:38.wav』
うん、「人間椅子」ですね。でも「声」をからめたところがいい設定だと思いました。
025『ナクシカク』
啖か鼻水の最後のくだりを読んでもう一度最初を読むと、なるほどうまいなと思いました。地の文の「俺(僕)」の声の言葉の選び方が、時々中学生(小学生)っぽくなくなるのがきになりました。
026『暗い水』
実体験を元にしたような描写が印象的でした。ちょっと最後の文のメッセージの意味をはかりかねました。
027『バーカ』
面白い!井上夢人さんみたいなオチのある話でした。
028『腸人』
前半は少し鈍重した感じで読みにくかったのですが、後半につれて面白さが増しました。もう少し長めにしてもよいかも。
029『ほしわたりの日』
設定と「ほしわたり」という言葉がきれいでいいですね。この話なら、もう少し簡潔な文章の方が好みです。
030『ガレージ「子供の時間」組み立て説明書』
説明書ですか!でも、ただ説明書というわけではなく、リズムを意識した書き方が効いていますね。
031『ЦЕЛУЯ ЖИЗНЬ 摩衆楼蘭』
音楽が聞こえてきそうでした。
032『スニッカーズ』
何となく村上春樹を思い出しました。カフカのジョニー・ウォーカーのくだり。
033『老婆の産道』
文章がうまいです。産道は参道ともかけてるのかしらん。
034『団地妻のり子 とても不埒な女です』
タイトルから想像もできない「のり子」の造形がよかったです。少し坂口安吾を思い出しました。
035『渚の子どもたち』
いいですね。取り残された子供の情景が浮かびます。これも好きな話です。
036『マイトレーヤの顕現』
前半から後半の展開が予想できませんでした。「なんにでもなれる」男で一本書けそう。
038『歩く』
素朴で面白いのですが、何となく読みにくさを感じました。何だろう、語の選び方かな。
039『世界忌』
うーん、よくわからなかった。
040『徹子の部屋』
面白いけど、徹子らしさが特にない気がしました。
041『長いものにまかれて』
「長いもの」のアイデアが面白かったです。内容と関係ないんですが、リンク先の字間が空きすぎていてちょっと読みづらい。
042『好きなものがない』
前半と後半の壮大さの落差がすごかったです。
043『殺人ドローン VS 森の動物たち』
ちょっと可読性に難ありでした。
044『植物家族』
面白いです。「回り道」のために元の家に帰れなくなるのは、三田村信行を思い出しました。
046『ああああ』
すんごい小説です。文章に力があるからこそ書けるやつです。文と文の間で時間も空間も跳び越えられるよさを存分に生かして迷宮みたいな物語になっています。
047『吉澤、異常なし』
なんだかへんな気分になる読後感です。
048『Nothing to kill or die for』
現実の事件(もしくはそれを下敷きしたもの)を書く時は、なぜそれを選んだのかという必然性が必要だな、と思いました。
049『ピーチボーイ・ジョニー/クリーニング・・レディ』(訳:最寄ゑ≠)
これはやっぱり桃太郎なんですかね?
050『わたしのピアノ』
読んでて胸が締め付けられますね…「ピアノつ」ってなんだろ。「ピアノっ」かな。
051『メェルシュトローム』
糞便派ですね。こういう文自体の体裁を考えるヤツは私も考えてみるのですが、結構難しいんですよね。
052『かはうそうををまつる』
動物的な肉を感じる句が多くて面白かったです。
053『花火』
緩やかな話かと思いきや視点が切り替わってぞくりとしました。
054『あいのかたち』
「あいのかたち」というにはちょっと弱い感じがしました。空想→現実のお話の構成がやはり今回の特徴なんでしょうか。
055『作家と編集者』
うーん、よくわからなかった。
056『見たら死ぬという絵はがき』
官能的で不穏ないい詩でした。
057『廊下で小説六枚書く話』
小説内小説ですかね?「真四角なら鶴でも」のくだりなんかが好きです。
058『海老のしっぽ再分配システム』
海老の尻尾と命の再分配の話の結びつけのアイデアがよかったです。それゆえ、ちょっとラストが唐突な感じがしました。
059『あんよが上手』
チェスターこわい!「手元が怪しいほうだから、丈夫な赤ちゃんのほうが育てやすい。」という一文もちょっとぞくりとして効いてますね。
060『あみだくじマスター』
どんな話になるのかわからないワクワク感がありました。「あみだくじマスター」の能力もラストでうまく回収されていて、出しそびれなければどうなっていたでしょう。
061『逆光』
古今東西「影」の話があるわけで、その中で特異性が出せるかどうか、というところだと思いました。
062『家を買った』
そうか、この作品も落ちてしまうのか、という感じでした。暗喩に満ちていて、色々と考えたくなる作品でした。
063『酸辣湯(サンラータン)』
くすっとしました。レシピ小説を読んだのは初めてです。
064『轍は彼方で交わるか』
苦しい話です。その苦しさのために、「殺す」などの言葉ではない言葉で描く方法もあったのかと思いました。「鳥瞰図のような海」という表現が引っかかりました。
065『接続詞が連なれば小説は終わらない』
左腕を選ばなかったくだりはちょっと説明過多のような気がしました。接続詞をもっと細かく使う話でも面白かったかも。
066『君は、これを読んでくれただろうか。』
猫も人気の題材なので、同じく人気のシュレディンガーの話とどう料理していくかが問われると思いました。弥勒菩薩の話は前に読んだな…はやってるのかしらん。
067『塚原くんと同じ顔』
「適度な微笑み」をどうして塚原君は浮かべていたのか、というところを考えると、転校してきた彼の境遇を垣間見るようでした。うまい小説だなと思いました。
068『ストレイシープ』
落語と捉えていいんでしょうか? 声に出して読みたくなりますが、ちょっと最後の落雷のオチがよくわからない。勉強不足ですみません。
069『砲撃戦』
諍いを「砲撃」と名付けるのがいいですね。「どうして間違えたんだろうか」がいい味を出しています。
070『カンパチ、セタガヤ界隈』
「若い男の声」なんですね。昔の彼の姿、といったところなんでしょうか。
071『フランス人の街』
ベトナムが舞台なんでしょうか。時代設定がちょっとよくわかりませんが、売春を仄めかしているように思えます。短い中に外国の名前がいくつか出てしまうと、私は混乱してしまいます。
072『Misrouter』
Wifiの接続時の名称って確かにお話が作れそうですよね。怪談としてはちょっと弱いでしょうか。
073『夢がへり』
これも落語でいいんでしょうか。こっちのオチはわかりやすい分、枕と同じぐらいの分量なのでちょっと弱いでしょうか。
074『宇宙イナゴ』
オチがくすっとします。真面目に読んでいて裏切られました。
075『姉目・妹目』
姉妹の目に映る風景がそれぞれ違うのだろうということが、丁寧に描かれていました。もう少し内容を絞った方が自分好みでした。
076『結局6か月分買ってしまう』
題名に戻る、というやつですね。上手でした。
077『鮭さんのショートショート(とても面白い)』
振り切れていて私は好きです。
078『形状記憶秒針』
この分量だと、この設定はちょっと消化不良でしょうか。
079『死出の旅』
詩のような小説のような、淡い感じですね。でもなかなか入り込めなかった。
080『養蚕』
「私」もいつか鍋でぐつぐつ煮られちゃうんでしょうか。
081『冗舌な歯医者』
星新一ですね。
082『終わりのあとの物語』
交互に挟まる物語のオチがなるほどとは思いました。
083『なんにも言いたくない』
いや、これ好きなんですけどね。これに何が足りないかわからないと自分は先には進めない、という気がします。
084『剃り残しの髭』
私は好きなんですけど、ちょっとストーリー性がありすぎるんでしょうか?
085『僕のふつーの生活』
「ふつー」と書く物語は普通じゃないですよね。ちょっと先が読めてしまう感じはありました。
086『めるるん』
世のアイドルオタクは怒っていいのかもしれません。でも笑ってしまいました。
087『備忘録』
まるで自分の経験を語るかのような、真に迫る備忘録でした。本当に「背景陳述書」ってあるんですね。
088『Queeen』
焼き肉が食べたくなります。
089『ファの屁』
排便派屁主義といったとこでしょうか。嫌いじゃないです。
090『団地奇譚』
なんかこう、団地のイメージが自分と離れすぎていて入り込めませんでした、ごめんなさい。
091『姉』
いいですね、面白いです。「はるか遠くで居眠る姉は小さい」というラストが好きです。
092『運のいい男』
ショートショート的小話ですね。最後がほろりとして余韻を感じさせました。
093『ししょうせつ』
死小説とかけてるんでしょうか。実体験っぽい感じです。小説としてどこまでを作者が狙っているのかがよくわかりませんでした。
094『P・ナーゴウ』
猫の探偵。ちょっと話に起伏がなくて、狙いなのかどうかが判別できませんでした。
095『サンゲツ機』
時事ネタをうまく消化して面白かったです。自意識に目覚めるくだりも好きです。村上春樹ぐらいまで行ってたらどうなっていたでしょう。やれやれ。
思ったこと
・「ファイトクラブ」だからと言って、「変」な小説を書こうとしてはいけない。
・猫は安易に出してはいけない。
・パスティーシュも安易にしてはいけない。
・思いつきを書いても小説にはならない。
・読者視点より編集者視点(最終的には読者視点)。
(*自作の落選作を眺めつつ)