第12回六枚道場後半感想

後半の感想も書きます。

Gグループ

21. 「麻雀騒郎記」閏現人

〇私は麻雀を覚えないように人生を生きてきたので、この小説の用語がはっきり言えば一つもわかりませんでした。でも読めちゃうし、雰囲気がすごいよくわかる。例えて言うと、面白い論文を読んだ感じです。専門用語は多いのに、読ませる論文ってあるんです。それに近い。もちろん題名は「麻雀放浪記」からとったのでしょうけど、対面というよりネットで対戦している感じも受けて、放浪記の令和版、という印象を受けました。

22. 「動物園」山口静花

〇動物園に恋の切なさを仮託した物語と読みました。私も作者のもつ動物園のイメージと近いものを持っています。ところどころ、漢字ではなくひらがなを選んでいる表現が柔らかさを感じます。これは意図的でしょうか。言葉の選び方(湿気ったお菓子の匂い、いよいよここは動物園、など)も書きなれている方の印象です。文体とテーマがよく合っていました。

☆この元カレはクソ男という感じがしたのですが、よろしいですかね?

23. 「秋月国小伝妙『終る前のメヌエット』」今村広樹

〇秋月国と見せかけたディケンズ勢でした。私は『ピクウィック・クラブ』を読んだことがないので、ネット頼りになってしまうのですが、筋らしい筋がない、蛇行するストーリー、でもそれぞれに味があり面白い、というところは、秋月国の掌編たちと似通っているのかもしれません。今村さんはこのいくらでも短編にできそうなアイデアを惜しげもなく出してしまうのがもったいないなあと毎回思ってしまいます。

Hグループ

24. 「残心」いみず

〇この話は何の話だろう、と思いながら読んでいくと、途中で胸が締め付けられました。すごく物語の運び方がうまいですね。予定調和で魅せる小説もあれば、奇想天外に進む小説もありますが、この話は何だろう、泥に足をとられて、一文字一文字歩んでいく感じがあります。抽象的ですが、話がまっすぐに進んでいないのです。文章のひとつひとつがうまいので気になりませんが、見事なバランスだと思います。最後が官能的で、いいですね。

☆読んでいて我に返る場面、というのがどんな物語にもあって、私はこの作品では「障がい」という言葉が出てきたときでした。確信犯的に見える佐々木とその語が少々アンバランスに感じました。これは瑕疵というより、私が消化できていない部分と捉えていただければ。

25. 「キロアラーム」土地神

〇星新一風のアイデアショートショートですね!軽やかであっという間に楽しんで読めました。オチもそつない感じでまとまった掌編でした。個人的にはもうひとひねりある方が好みではありますが…

26. 「懺悔/散華」乙野二郎

〇最初の告白は何だろうなあと思い、機体に人工脳を埋め込む話はどこかで読んだような…と思いながら進めていくと、最後の選択が光る物語でした。だから「/」なんですね。うまいです。これは新しい形の地獄ですね。

☆戦闘機に疑似人格を埋め込む話はなんだったかな…攻殻機動隊だったかな…

Iグループ

27. 「読みかけのディケンズ」Takeman

〇いや、死のグループです。Takemanさんのお話はドキドキしながら読むことが多いのですが、これは爽やかで読後感もすてきな物語で安心しました。魅力的なJ・Jの造形も短い中によくまとまっていて、うまさを感じました。

☆よく海外の登場人物が出てきますが、上手に書かれていていいなと思います。何か参考にしてるものとかあるんでしょうか。

28. 「読みかけのディケンズ」成鬼諭

〇新しい刺客ですね! いや、何を読まされているのかと思いきや、ヴァンパイアのネタはいいですね。面白いのは、「一徳元就」「げんなり」そして筆名の「成鬼論」、もしかして他のものも含めて、物語が現実に侵食していて誰が誰になるやらわからなくなるという感じということ。こういうお話は好きです。

29. 「読みかけのディケンズ」坂崎かおる

〇拙作です。ちなみに日本語では「ディケンズ」表記が一般的なはずです。英語を聞くと、語頭にアクセントがおかれるので「ディッケンズ」っぽくなるのですが。

Jグループ

30. 「近くの彼女」佐藤相平

〇最後まで読んでオヤ、と思いました。ぶつっと物語が切られてしまったように見えたからです。佐藤さんのいつものお話だと、もう一つ展開を入れて余韻を残すパターンが多かったように思いましたので…。非常に身勝手な主人公の犠牲になった、ともとれますし、「近くの」といいながら、この主人公はその原因にすらなっていない、とも思えます。ちょっと実験的な感じがいたしました。

31. 「田辺んちの奥さん」椎名雁子

〇誰だったかな、筒井康隆だったかな、変身するわけではなくて、姿態として犬か猫のようにふるまうという物語を読んだことがあります。「奥さん」が「犬」に変身するという構成が一つ肝で、「頭は良さそうじゃないし」あたりから、最後の「悪くないかもしれないな」につながる主人公の語りを追っていくと、無自覚な差別意識に行き当たります。なかなかひやりとさせる掌編です。

☆特徴的な改行と字下げなどに意味はあるんでしょうか?

32. 「宇宙作家ディケンズ」小林猫太

〇正直、最初猫太さんの話を読んだ時は、なんじゃこりゃと思ったんですが、もうあれなんですよ、「宇宙編集者ギャリバーなのであった」と書かれたら、歌舞伎よろしく「よっ小林屋!」「待ってました!」とやりたくなるんですよ。体が欲してしまうんですよ。これを道場で読めなくなるのは本当に寂しい。

☆イノシシは流行りの鬼の方なのか、イシシとノシシなのか…

Kグループ

33. 「異動」USIK

〇最近漫画とかで流行りの異色お役所物語かと思ったら、いい意味で裏切られました。アカシさんの「記述の外へ追いやる」という姿勢が面白い。このアカシさんだけシングルカットして別の話を私だったら書きたいです。最後の電話機のくだりもいいですね。

34. 「CITY」馬死

〇掌編を書く時に、何かキーになる言葉を見つけられたらなといつも思うのですが、あんまりうまくいきません。その点で、この話の「コツコツ」のくだりはとてもやさしく印象深い味わいでした。最後の場面と相まって、うまく使われています。パンツの話との落差がまたいいですね。

35. 「読みかけのディケンズ」山崎朝日

〇最後のディケンズ。今まで読んだ中で、このディケンズが一番好きだったかもしれません。一番の理由は「竜の目の涙」を最後にもってきたところです(本当はひらがな表記がいいかな…)。あの話はいいです。それだけで作者の人とは趣味が合う気がします。ちょっと時間軸が行ったり来たりするのに難しさを感じますが、「読みかけ」の使い方もうまいですね。本を読むのって、私も誰かを待つ時だったかもしれません。


以上、みなさんありがとうございました。またこんな場所でお会いしましょう。

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