第12回六枚道場前半感想

今回でおしまいということで寂しい限りですが、今回もできるだけ感想を書いていきたいと思います。

Aグループ

1. 「青い燈台」田中目八

〇俳句の連作って面白いなと思うのが、初句がいわゆる小説で言うところの場面設定にあたっていて、そこにエネルギーが注ぎこまれているように見えるからです。今回は「渡り漁夫千年つづる波紋かな」なんですが、海のイメージと「千年」で、時間軸がびろーんと延びたように感じられます。田中さんは今までの句を見ても、今現在、というより、もっと歴史よりな、びろーんと長いスパンの時間で詠まれているように思います。
「陸」と「海」のコントラストが随所にあると思ったのですが、もう一つ、僧(宗教)と現世の対比もありそうに感じました(比丘尼、かはごろも、放生会など)。もしくは彼岸と此岸のような。句を読んでいくと、そこら辺が行ったり来たりできるようで楽しかったです。深読みするならば、「燈台」は、海にありながら陸に立っている両義的な存在なので、この連作をうまく象徴しているなと思いました。

☆「かまきりやわたしの肉のなかにゐる」が、すごく異質な感じを受けました。これは解説してほしいです。肉は肉欲?

2. 「部屋」相垣

〇「部屋」という空間を捉えた連作と考えました。繭や胎内や蛹にかこつけて、心の窮屈感というか、焦れた感覚が伝わってきました。「指組ませ~」の皮肉がすごいいいですね。

☆ドリーがちょっとわからなかった。ニモしか出てこない…

3. 「死んでる場合か」短歌よむ千住

〇私は花筏のやつで衝撃を受けたんですが、今回は俳句なんですね!なんか勢いが違うなといつも思うのですが、後半畳みかけるような「凍」の連続、もちろん読み方は違うわけですけど、字面がインパクト違いますね。「大先輩」「半仙戯」「水圏戯」の韻を踏んだ畳みかけもすごい。管を巻いている様子がとてもよく目に浮かびます。

4. 「読みかけのディケンズ」夏川大空

〇これを詩に配置するのは確かにいいなと思いました。私はプログラミングするわけではないですけど、マクロぐらいはちょこっといじったことはあって、あの命令する感じが好きなんですよね。田村隆一は「命令形」という詩の中で「ゆき/ゆき/もっと ふりなさい」という歌の「命令形が好きだ」と書いているわけですが、詩って唯一人に命令ができる文学だと思うのです。なので、こういうプログラミング言語と詩の相性はとてもいいのではないか、というのが今の私の持論です。


Bグループ

5. 「黒い靴のままで」Yoh クモハ

〇いい詩にはリズムがあると思うのですが、思わず口ずさみたくなる「喪中」の連続でした。いろんなところに転がっている死とその予感の畳みかけの、最後の「喪のあけ方を知らない」をもってくるのがすごくはまってました。

☆なぜコンドルのジョーなのかがすごい気になります…結局死んでなかった気もするし…

6. 「読みかけのディケンズ」草野理恵子

〇最初のドードーの眼球は、以前書いていた人体詩からとられたものですね。こういう時に異同を検討するのが好きで、今回のものは「怖い→恐怖しかなかった」「私はある夜+意を決し」というところから、より切迫感が生まれたように思えます。草野さんの人体詩がけっこう好きで、読むといつも、アルチンボルドの絵画を思い出します、人間の身体が別の何かに置き換わり、分解されていく感じが共通しているのかもしれません。今回は特に「黒い子守り」が好きですね。ディケンズのあの怖めの「子守り女の話」とマッチしていたように思います。

☆他の詩が、ディケンズの各短編とどこまでマッチしてるのかは、ちょっとずれを感じました。でも昔に読んだきりなので、自信がないんですが…

Cグループ

7. 「マグロ大王殺し」笹谷爽

〇すごい読みやすいんですが、何を読まされているのか最後までわからないこの感じが何だか懐かしい感じがします。メタファーなんかくそくらえ、フルチンバーストでおもしろおかしく生きてみたい気にさせられます。なんだろう、何となくまた読み返してしまうのが不思議です。登場人物の名前が今や懐かしい掲示板のハンドルネームのようで、00年代前半ごろを思い出しました。

8. 「劫火の終わりに摂氏世界を孵化させる、再生と順接の神、環化su蛾花」ハギワラシンジ

〇とりあえず私はこれを、滅びた世界を元に戻す(もしくは別の状態に移行させる)お話と感じました。環化は鎖式化合物が環式化合物になることだから、えーっと、滅びた世界が安定的な様相を取り戻すための手段というか…心臓のない「僕」は順応できるのかな?

☆suがどうしてもよくわからなかった…

9. 「読みかけのディケンズ」吉美駿一郎

〇ああ、「信号手」読み返しておけばよかったと思いました。ちょっとミステリ風味の短編だったと記憶してるんですが、そこまで細かく覚えていない。夢の話は書くのは簡単だし意味をもたせるのもやりやすいんですが、上手に運用していくのが難しいので、吉美さんの使い方は見事ですね。「ハピエン」の話題のやりとりを横目で見ていましたが、この作品は流れとして再会がないと成立しないので無理がないものでした。

☆彼女はいったい今まで何をしていたのかが気になります。そこを考え始めると、この女性の狂気のような部分に触れざるを得なくて、果たしてこれは幸せな結末になるのか、という疑問があたまをもたげました。

Dグループ

10. 「睡魔」松尾模糊

〇悪魔がいることで家庭や睡眠に問題があったのか、それともこの悪魔の存在がきっかけとなることで問題が解決に導かれたのか、その二つのどちらも読めると思いました。前者であれば、手なずけたことで物語は解決しますが、後者であれば何か代償が必要になります。私は後者の読み方をする人間なので、この先、「僕」が何を支払うことになるのかが気になります。

11. 「河」麦倉尚

〇特に記載はないですが、Aという人間は何か不遇であるか、不満を抱えているように見えます。麦倉さんの他の作品を読んだ時もそう思ったので、ひとつのテーマなのでしょうか。「河ではなく」朝日をみたいと思う主人公の思いをもうちょっと広げて読んでみたいです。

☆(見えない)語り手の立ち位置がちょっとわかりにくかったです。(次の日、その日、翌日の休日)。私はわかりやすい方が好きなので、意図的ならば字数を費やしてもよいのかな、と思いました。

12. 「読みかけのディケンズ」化野夕陽

〇私は書く時に「読みかけ」をどのように処理するのか苦労したのですが、化野さんはこの部分がクローズアップされていて、うまいなあと思いました。失せ物探しの能力で、というところも私はよかったと思います。「青い鳥」のバッドエンド版といった感じで。

☆これは作品の根幹にかかわるので断言はしないのですが、初版本が Chapman and Hall(1859)版を指すならば、三巻に分かれておらず、一冊ではないかと思います。二都物語はBOOK1、BOOK2、BOOK3と表記がありますが、これは日本語的には「第一部」「第二部」程度の意味で、英語のものは大概は一冊でまとまっている場合が多いかと…。違ったらごめんなさい。(私はWikipediaの「二都物語」の「全三巻」の表記は誤りではないかと思います)

参考→https://www.raptisrarebooks.com/product/a-tale-of-two-cities-charles-dickens-first-edition-rare-book/

ちなみに初版本はオークションで買うとめっちゃ高いです。

Eグループ

13. 「読みかけのディケンズ」苦草堅一

〇Twitterでも呟いたのですが、面白かったです。こういう良い意味でバカバカしい話を、どれだけ我に返さず読ませるのか、というのも一つの技量だと思うのですが、ニガクサさんはそこらへんの塩梅がとても上手でした。最後の巻末のディケンズ列挙を書きたいがために、この話を書いたように私は思いましたが、どうでしょ。

14. 「Each other」黒塚多聞

〇この内面世界をSF的に捉えるなら、面白い趣向だと思いました。世界を構築して言くという意味では冬乃くじさんの「ハッピー・バースデー」を思い出しましたが、あれは外的世界との繋がりを軸にしていることに対して、こちらは徹底的に二人の世界、という閉じた世界という印象でした。

☆物語がぶちっと切られた感じで終わっていますが、私はここに不穏さを読み取りました。寛解しても、内面世界は発達を続けていくのではないか、そこから先にはまだ二人が予想できない未来が待っているのではないか、そんなことを思わせました。

15. 「読みかけのディケンズ」こい瀬伊音

〇私はあまり自分と近い物語は書かない(書けない)のですが、これは比率はわからないものの、こい瀬さんの現実がぎゅっと凝縮されている感じを受けました。どこにヤマを見るかですが、私は泥人形のくだりに詰まっていると思いました。自分の形を保ち続けていくことは難しい。コロナ以降、色々なディスタンスの作品がありましたが、うまい距離の書き方でした。

16. 「アバウト・ア・ガール」かかり真魚

〇ノワールといった感じで面白かったです。韓国映画を意識されたというような呟きを見たような気がしますが、まさにそのテイストで、文章をストレスなく読むことができました。映画のシーンの一部を丁寧に切り取り掌編にした感じで、技巧的なうまさを感じました。短い中で、ユンジェとジウの微妙な関係も描き出せるのは、きっと色々なものを蓄積されているからなのでしょう。

Fグループ

17. 「やうやうばなし」正井

〇いやうまいですね…とまず嘆息がもれるお話です。不眠のまどろみの様子が真に迫っているのにさりげなく描写されています。記憶が混濁し、夢と現実が入り混じり、「やうやうばなし」の歌が混ざり合う。「やうやう」は「やうやう白くなりける」の「やうやう」と、「妖々」というあやかしの意味も含めているのではないか、と思わせました。

☆万年筆のくだりが、なぜ万年筆なのか、と考えてしまいました。何でも意味を考えてしまうのが悪い癖です。

18. 「プレイステーション東京」奈良原生織

〇いやこれもうまいですね。「プレイステーション」にどのような意味を感じるかは年代によって変わるのではないかと思うのですが、たぶん私は奈良原さんとそんなに遠くない感覚で接しているのではないかと思います。この物語はポリゴンで描かれていて、特に最後の場面は派手な電飾が寂れた感じで、テレビ画面に現れているようです。東京はある意味病であり、呪いであり、しかしそれは慣性として日常化していくことができる。とにかくこの話に「プレイステーション」というタイトルをつけられるところが作者のたぐいまれなる技量なんだと思います。

19. 「ケツ穴☆浪漫譚」海棠咲

〇来ましたね!私はケツ穴に対してここまで書くことはできないので、素直に感嘆します。どうしてマカロンがやってくるのか…。

20. 「読みかけのディケンズ」至乙矢

〇ファンタジー的ですね。並行世界の物語を記者が視るという設定が面白いです。オリバーツイストの世界なんでしょうか?「読みかけのディケンズ」がメタ的に取り扱われ、前半の最後の相応しさを感じました。

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